「失われた記憶」
『ウルトラセブン誕生30周年企画』第1話
1998年6月5日発売
脚本・監督・特撮監督 神澤信一
洗脳宇宙人ヴァリエル星人
身長 160cm~43m
体重 55kg~3万2千t
人間の女性に変身してテクノシティ各地に出没し、他の植物より数十倍から数百倍の炭酸同化作用を持つ謎の植物をばら撒く。植物が放射する脳神経を麻痺させるガスで人々の記憶を失わせ、記憶を失って不安な人々を言葉巧みに操っていた。
今回は調査が目的だったらしく、今度は大勢の仲間が地球に来ると語っていた。
人間形態ではマシンガンを使い、手から花粉を放射する。巨大化後は両手や肩の花弁から光弾を撃ち花粉を放射する。地下にUFOを隠していたがポインターとの戦いで失ってしまう。
一度はエメリウム光線にも耐えたが最後はワイドショットで倒され、残った花粉もトルネードビームで完全に吹き消された。その後、記憶を失った人々は順調に回復していったらしい。
物語
ウルトラ警備隊の世代交代が進む中、テクノシティで謎の記憶喪失事件が続発する。
一方、メトロン星人との戦いで行方不明になっていたダンは記憶を失って地球人として生活していた。
感想
ウルトラシリーズ初のオリジナルビデオシリーズ。
1996年に円谷プロとVAPが製作して日本テレビ系列で放送された『ムーンスパイラル』がきっかけとなって本シリーズが製作される事となった。
TVからビデオに変わった事で通常のウルトラシリーズより対象年齢を高めに設定しているのが特徴。なんとなく2時間ドラマの雰囲気になった感じ。照明が暗すぎるのがちょっと難点かな。
地球防衛軍極東基地は東京近郊に変更された。面白味の無い基地になってちょっと残念。ポインターはまたもや変更されている。
フルハシは遂に参謀となった。
第3期ウルトラ警備隊は人数が6人に戻った事で「ウルトラ警備隊7人目の隊員」と言うウルトラセブンの名前の意味が復活したのが嬉しい。
サトミ隊員は様子のおかしいミズノ隊員を一発で殴り倒し、ヴァリエル星人に操られた人々を次々倒していくなどかなり強い。麻酔弾を撃つ場面は『セブン』の「緑の恐怖」のパラライザーかな?
注目のカザモリは驚くほど影が薄いが、後の展開を考えるとわざと前面に出さなかったのかもしれない。ダンとカザモリの最初の出会いの場面は無音なのが運命を感じさせて良かった。
本シリーズは「記憶」がテーマらしく、今回の話は「個人の記憶」が取り上げられているらしい。
「地球星人の大地」でのメトロン星人との戦いで記憶を失ったダンは村田家に身を寄せ、自分の過去を追い求めるかのように地球の過去たる遺跡の発掘に携わっていた。
BGMも効果音も一切排した登場シーンが威厳があって良かった。
ダンは今回も何故かよくモテる。居候先の恭子さんだけでなく娘の麗ちゃんにも慕われていて、発掘現場でもヨシナガ博士に妙に気をかけられていた。
ヨシナガ博士は過去の文化遺産を探る事は自分達のルーツを探る事と語るが開発関係者達は過去なんかより未来に目を向けなきゃと反論する。それに対してヨシナガ博士は考古学は未来を知る学問だが過去のガラクタ集めにしか考えない人が多いと嘆く。
未来を知る為には過去が必要と言う話は『セブン』と言う過去の作品を使って未来を語ろうとした『平成セブン』と言う作品に通じるものがある。
ダンが星を眺めていると何か思い出せそうな気がすると語るが麗ちゃんはダンにいつまでもいてほしい感じであった。流れ星に願いをかけたら叶うと言う話。はたして二人は何を願ったのだろうか……。
失われた過去の記憶を求めるダンに対し、恭子さんは過去の記憶がそんなに重要なのか、人には忘れたくても忘れられない事があると語る。
結局、二人の間にあった壁は取り除かれず最後は別れる事となる。
恭子さんはダンが発見されていた時に身に付けていたと言うウルトラアイとカプセル怪獣を渡して「お返しします。それと……出て行く時は黙って行ってくださいね」と告げる。
テクノシティで異常な数の記憶喪失者が発生して都市機能が麻痺する恐れが出た原因は謎の植物をばら撒くヴァリエル星人であった。
記憶を失って跪く医者を見下ろして「君が忘れてしまったのは忘れるべき記憶。君に新しい記憶をあげよう」と手をかざす感じが女王様っぽくて好き。
ヴァリエル星人は女性に変身して色々な衣装を見せて好みのキャラクターだったが正体が男性だったのはちょっと残念。おそらく地球の男性は可愛い娘に弱いが綺麗なお姉さんにも弱いと言うデータを手に入れていたのだろう。
「地球星人の大地」に登場した恐竜を除くとヴァリエル星人は『平成セブン』初のオリジナル怪獣となる。
井口明彦さんのデザインなので成田亨さんや池谷仙克さんが『セブン』でデザインした怪獣とは雰囲気がやや違っている。
そう言えば『セブン』のスタッフで『平成セブン』にも深く関わった人は殆どいなかった。せっかくの続編なのだからオリジナルのスタッフが誰か関わっても良かったと思う。
第2のテクノシティ開発として遺跡の発掘現場も開発される事になるが発掘に関わっていた学生達がいきなり工事関係者達を襲い出す。やって来たウルトラ警備隊はテントの中で謎の植物を手にするダンを不審に思って問い詰めるが、ダンは一瞬の隙を突いてポインターを強奪し、ウルトラ警備隊は近くにあった軽トラックに乗って追跡する。
特別チームの隊員が軽トラックに乗ると言うシチュエーションが面白い。
それにしてもダンは怪しすぎ。これなら侵略者ではないかと疑われても何も文句が言えない。
しかし、ヴァリエル星人のUFOが出現してウルトラ警備隊はダンの運転するポインターで発掘現場に戻る事に。
って、こんな怪しさ大爆発な男に運転させなくても……。
「俺の記憶は俺のだけじゃなく、きっと遺伝子の中にも書き込まれる。そうやって人類の歴史は作られていくんだ。もし書き込まれる記憶が失われて誰かに別の記憶を植え付けられたとしたら……。こいつはとんでもない事件だ。ダン、こんな時、お前だったらどうする?」。
フルハシ参謀の話でヴァリエル星人の作戦がかなり恐ろしいものである事が分かった。
ただこの台詞をフルハシ参謀が言うのはちょっと違和感があった。もう少しキャラクターに合わせた方が良かったかも。
後半のダンに問いかけるのが良かった。思えばフルハシは同僚だったウルトラ警備隊の隊員は全員が退役したか亡くなったりしていて周りに誰もいなくなっていた。それがさらにダンとの絆を強める事になっていったのであろう。
ヴァリエル星人のUFOが出現してパニックに陥る発掘現場に恭子さんと麗ちゃんがダンの忘れ物であるウルトラアイを届けに来る。
恭子さんは麗ちゃんに何も話さずにダンと別れようとしたが、やはり最後に面と向かって別れる事を決心したようだ。
ところで恭子さんと麗ちゃんはダンの事をどこまで知っていたのだろうか? ダンがセブンである事まで知っていそうだが逆に何も知らなかった可能性もある。
ポインターに乗ってヴァリエル星人のUFOを追跡しようとするダンの前にウルトラガンを構えたカザモリが立ちはだかる。
ダン「俺を撃つ気か?」、
カザモリ「俺を轢いて行く気か?」。
似た者同士の二人は一緒にポインターでヴァリエル星人のUFOを追う事に。後の二人の関係を考えるとかなり重要な場面。
ただこの場面の前にダンとカザモリがポインターに一緒に乗っている場面が普通にあったのが残念。この場面の印象を強くする為にも先の場面はやめてほしかった。
墜落したヴァリエル星人のUFOを追うダンは炎に包まれた森の中でメトロン星人との戦いを思い出す。
思わず意識の中でセブンのファイティングポーズをとるダン。
煙に包まれた森の闇の中、ヴァリエル星人が現れる。
ダン「君は……私が誰なのか知っているのか?」、
ヴァリエル星人「姿だけでなく心まで地球人になるのか?」、
ダン「私が……宇宙人!?」、
ヴァリエル星人「そう……、君は地球人ではない。さようなら……、ウルトラセブン」。
ヴァリエル星人は銃を取り出してダンを撃とうとするが、そうこうしているうちにUFOが完全に爆発して故郷に帰れなくなってしまう。
怒ったヴァリエル星人は巨大化し、それを見たダンは遂にウルトラアイを装着してセブンに変身する。
ところでヴァリエル星人は記憶喪失のダンを他の記憶喪失者と同じように操ってしまおうとは考えなかったのだろうか……。
かつて美しかった緑の星である地球が今は地球人によって死にかかっているとしてヴァリエル星人は自分達は侵略ではなく地球を救いに来たと語る。
実際、ヴァリエル星人は緑を壊して開発したテクノシティの機能を麻痺させていたので分からなくもない。植物生物らしいので緑を守ろうとしたのだろうか。
それだけに巨大化して緑を焼き払い木々を踏み潰していった行動が理解出来ない。本編も特撮も同じ神澤監督なので本編と特撮の食い違いとかでもないと思うのだが……。
ダンは地球の開発を古い時代から新しい時代に変わっていくだけの事と語るが、少し前に語っている目先の事に囚われて大きなヴィジョンを見失っていると開発を否定していたのと食い違っている。
ヴァリエル星人も何故今のあるがままの自分を認めず過去に拘るのかとダンを問い詰めていたが、そんな自分達の目的が過去の地球を復活させると言うのは矛盾している。
今回の話は神澤監督が脚本・本編・特撮の全てを担当しているのに全体的に練り込み不足で各パートによる食い違いが出てしまっているのが残念。
復活したセブンに向かって静かに敬礼するシラガネ隊長が良い味出している。
そして「セブンが……!? ちきしょう、ダンの奴……。俺は心配なんかしていなかったからな。本当だぞ……。本当だぞ!」と満面の笑みで喜ぶフルハシ参謀も良い味出している。
フルハシ参謀の隣で訳が分かっていないルミ隊員に世代を感じる。
セブンとヴァリエル星人の戦いは夕焼けが舞台。
エメリウム光線を受けて体のあちこちが爆発しても戦い続けたヴァリエル星人は根性ある。
ヴァリエル星人の攻撃を受けて爆発と炎に包まれたセブンはメトロン星人との戦いを思い出す。そして煙と炎の中から颯爽と復活したセブンは見事ヴァリエル星人を倒し、ウルトラ水流で火災を鎮めるとトルネードビームでヴァリエル星人の花粉を地球上から吹き消すのだった。
今回はいくら時間があるからと言っても戦闘が長すぎた。しかも、長い割にヴァリエル星人が攻撃する、セブンが苦しむ、ポーズをとって高笑いするヴァリエル星人、復活して反撃するセブンと言う単調な展開の繰り返しだったのも残念だった。長ければ良いと言うわけではない。
戦いが終わって、カザモリは楽しそうに談笑するダンと恭子さんと麗ちゃんの姿を見る。これが最後の団欒になるのかな。
今回の話は説明不足や矛盾や混乱と言ったものが多々あった。
色々なテーマを掲げた為かそれぞれの掘り下げが足りなかったので、ダンがセブンの記憶を取り戻すと言う一点に話を絞った方が良かったと思う。
「私達の存在を証明するものは積み重ねられた記憶の一つ一つ。そこには楽しい記憶ばかりではなく、辛い記憶、哀しい記憶もあるかもしれません。それでも人はそんな記憶と共に生きていくのでしょう。また、新たなる記憶を求めて……」。
そして新たなる物語、『平成セブン』がいよいよ本格的に始まるのであった。