帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「栄光と伝説」

「栄光と伝説」
ウルトラセブン1999 最終章6部作』第1話
1999年7月7日発売
脚本 神澤信一・武上純希
監督・特撮監督 神澤信一

 

寄生生命体ヴァルキューレ星人
身長 不明~58m
体重 不明~3万9千t
太陽系第10惑星の衛星ヴァルキューレに住む。
地球人のフレンドシップ計画を恐れて地球人に対して先制攻撃を仕掛けた。
他の生物の肉体を乗っ取る事が出来、ムーンベースを仲間割れで壊滅させ、さらに地球防衛軍内部でクーデター騒ぎを起こして市民からウルトラ警備隊不要論が湧き上がるよう扇動した。
ダンの肉体も乗っ取ろうとするが失敗し、心のままに醜い姿を現す。
肉体を持たないと言っていたが巨大化したり実体化したり姿を消したりした事から肉体を持たないのではなく姿と波動を消す事が出来ると思われる。
アイスラッガーを受けて姿を現し、ワイドショットを受けて爆発した。
名前の由来はドイツの「ワルキューレ作戦」かな。クーデターの話だし。

 

物語
ムーンベースが壊滅してフルハシ参謀が生死不明に。
代わってウルトラ警備隊の指揮を執る事になったカジ参謀は「フレンドシップ計画」を推し進める。
地球に帰ってきたセブンは果たして……。

 

感想
『誕生30周年企画』を受けて製作されたオリジナルビデオシリーズ第2弾で前回のシリーズでは薄かったウルトラ警備隊の物語に力が入れられた。
TVスペシャルで『セブン』シリーズが再始動し、『誕生30周年企画』でフルハシ参謀の話に決着が付けられ、今回のシリーズでダンの話に決着が付けられる事になる。(因みに次の『EVOLUTION5部作』はカザモリの話の決着となっている)

 

ウルトラ警備隊の隊員は『誕生30周年企画』と変わっていないが、ポインターはまたまた変更されている。
無断で調査に出て行った隊員の声真似をして何とか誤魔化そうとするルミ隊員がカワイイ。思えば初めてルミ隊員のキャラクターが出たような気がする。
隣でその声真似に付き合ってくれたシラガネ隊長が良い味出してる。

 

遂に地球はワープ航法を獲得して宇宙での活動範囲が飛躍的に広がった。
撮影の関係で他の星を舞台にするのは大変だからか、ウルトラシリーズで地球がワープ航法を獲得している作品は意外と少ない。

 

地球との連絡が途絶えたムーンベースでは仲間同士による殺し合いが行われていた。この展開は『ティガ』の「月からの逃亡者」を思い出す。
フルハシ参謀は部下を脱出艇に乗せて一人基地に残るが何故残ったのかちょっと疑問。定員オーバーだったのかな?

 

何者かに体を乗っ取られたフルハシ参謀は自分で自分を撃ってしまい、セブンが駆け付けた時には既に手遅れで、駆け寄るダンにフルハシ参謀は「ダン、頼むぞ。俺は感じた……。お前の……温かい心を……」と言い残して息絶えてしまう。
『セブン』からの重要キャラクターであるフルハシ参謀の死には驚いた。
スタッフによると『誕生30周年企画』で地球を離れたセブンをもう一度地球に呼び戻すにはフルハシ参謀が死ぬ位の事がなければいけなかったとの事。
ところでフルハシ参謀は自分の頭を撃ち抜いたように見えたが、ダンとの場面では頭から血を流していない。抵抗して頭を撃ち抜くのは回避したのかな?(そもそも頭を撃ち抜いたら会話は不可能か)

 

ムーンベースが壊滅してフルハシ参謀の生死も不明。さらに脱出艇に乗っていた隊員達も仲間割れを起こしたらしく全員死亡していた。
外部から侵入の形跡は無く、内部の犯行、クーデターの可能性が出てくる。
フレンドシップ計画に反対していたフルハシ参謀に疑いが集まる中、フルハシ参謀を慕っていた整備員が乗ったウルトラホーク3号が無断発進して市街地を攻撃してしまう。
ウルトラホーク3号に乗っていた整備員がウルトラ警備隊直属でフルハシ参謀の信奉者だった事からウルトラ警備隊の責任問題が浮上し、かつてウルトラ警備隊の隊員だったカジ参謀がウルトラ警備隊の指揮を執る事になるが他を差し置いての異例の抜擢に不満の声が起きる。
ウルトラシリーズの特別チームは長官をトップに一枚岩である事が多く、内部で様々な勢力が互いに牽制し合っている『平成セブン』の設定は異色で面白い。

 

整備員が乗るウルトラホーク3号とウルトラ警備隊が乗るウルトラホーク1号による市街地上空での戦闘。
特別チームの戦闘機同士が戦うのは他には『T』と『ティガ』と『メビウス』くらいかな。
部屋の中からウルトラホークを見る構図が珍しくて良かった。

 

不祥事続きのウルトラ警備隊はマスコミのバッシングに遭ってしまう。
ある番組では「戦争とか紛争と言うのは政治の問題でも異なった文化や宗教が出会った時に起こるものではなく経済の問題。戦争は経済的ではないとやっと皆気付いてきた」「ウルトラ警備隊は局地戦にしか使えない前時代の遺物で不要」と言う意見が出てくる。
まぁ、ウルトラ警備隊は6人しかいないので局地戦にしか使えないと言うのは的を射ている。
戦争は経済の問題と言うのも当たっているが、異なった文化や宗教が出会った時に起こるものではないと言うのは本作の2年後に起きたアメリ同時多発テロで間違っていた事が証明された。

 

フルハシ参謀が反対し、カジ参謀が推し進める「フレンドシップ計画」。
表向きは太陽系の防衛システムだが、実態は太陽系の各惑星に前線基地を置いて侵略の可能性のある星に先制攻撃を仕掛けると言うものだった。
この対立があった為、ウルトラ警備隊は今回の一連の事件をフルハシ参謀派を陥れる為のカジ参謀派の陰謀ではないかと考えてしまう。疑心暗鬼に陥った地球防衛軍の関係者達は外の敵より中の敵を考えるようになってしまうのであった。

 

ウルトラ警備隊不要論者であるカジ参謀が自分達の指揮を執る事になり、シラガネ隊長はさっそく「自分達はフルハシ参謀に育てられた事を誇りに思っている」と牽制するが、カジ参謀は「時代が変わればシステムも変わる」「今回の事件は地球防衛軍を根本から変えるチャンスだ」と組織の抜本的改革を匂わす。
その後、フルハシ参謀のクーデター疑惑を追及させてほしいと言うウルトラ警備隊に対し、カジ参謀は「自分もかつてウルトラ警備隊の隊員だったからこそ、その限界も知っている」「フルハシ参謀とは父と子みたいな関係であるウルトラ警備隊では真実の究明は出来やしない」と言い放つ。
カジ参謀のこの意見は正しい。この時のウルトラ警備隊はフルハシ参謀はクーデターを企んではいないと先に結論ありきで調査をしてしまう恐れがあった。こういう調査は第三者が行うべき。
カジ参謀の役回りはよくある無理解な上官だが、かつては同じウルトラ警備隊員だったからこそその限界も知っていると言う設定が面白かった。むしろ他の作品でかつて現場だった上官があまり出てこないのがおかしいのかもしれない。

 

カジ参謀の回想シーン。
炎に包まれた荒野でウルトラ警備隊のヘルメットを手にしてカジ隊員が絶叫する。
カジ「隊長! 我々はまだ戦えます! 追撃の命令を!」、
フルハシ「作戦は終了した。見ろ、侵略者達は撤退していく」、
カジ「しかし、しかしまだ、敵を壊滅させるに至ってません!」、
フルハシ「俺達は戦争をしているわけじゃないんだ。愛する者を侵略者の魔の手から守ってやれればそれでいいじゃないか」、
カジ「……生温い! 生きるか死ぬか! 倒すか倒されるか! それがエイリアンとの戦いです! 奴らが再び巨大な戦力で襲ってきたら! ……我々は無力です」、
フルハシ「もういい! 作戦は終了した。これ以上の犠牲は必要無い」、
カジ「そんな……、そんな弱腰では……、犠牲を増やすだけです! 見損ないました!」。
カジ隊員は手にしたヘルメットを力の限り地面に叩きつけた……。
どうやらTVスペシャルから『誕生30周年企画』までの間に激しい戦いがあったらしく、それが第3期ウルトラ警備隊結成に繋がったようだ。
個人的にはこの問答はカジ隊員の方に感情移入できる。フルハシ隊長は「愛する者を守ってやれればそれでいいじゃないか」と言っていたが、カジ隊員が手にしていたヘルメット、リサ隊員かトーゴー隊員かあるいは二人ともか、見る限り命を落としていると思われる。つまり、愛する者を守れていないのだ。これ以上犠牲を増やさない為に今のうちに敵を壊滅させてしまおうと言うカジ隊員の考えはよく分かる。
ところでフルハシ隊長は「我々は戦争をしているわけじゃない」と言っているが、ではこの戦いは何だと言うのかちょっと疑問。専守防衛も戦争になると思うが……。
因みに『ティガ』でムナカタリーダーを演じた大滝明利さんは『ティガ』のシンジョウ隊員のその後はカジ参謀に繋がっているかもしれないと語った事がある。事実、ここでのカジ隊員の台詞はクリッター関連でのシンジョウ隊員に通ずるところがある。

 

地球に降り立ったダンの前にヴァルキューレ星人が立ちはだかる。
ヴァルキューレ星人「ウルトラセブン。君は何故宇宙を侵略する者の味方をする? 我々は地球人が衛星ヴァルキューレと呼んでいる星で数億年の平和な時を過ごしていた。もし我々の存在が発覚すれば衛星ヴァルキューレは破壊される。皮肉にも地球人はフレンドシップ計画と呼んでいるがね」、
ダン「まさか地球人が!? まさか!?」。
地球人が宇宙の侵略者になると言う展開はウルトラシリーズではよく出てくる話だが、今回は実際にフレンドシップ計画があるのでその話に説得力がある。

 

ヴァルキューレ星人の罠によってウルトラ警備隊は市民との喧嘩をマスコミに撮られてしまい、シラガネ隊長は辞表を出す事になるがタケナカ長官はそれを破ってしまう。
「ウルトラ警備隊とはウルトラホークを始めとする最新鋭の兵器の事でもコンピューターに蓄積されたタクティクスの事でもない。キリヤマ隊長やフルハシ前隊長が育て上げた、君を始めとする優れた人材一人一人がウルトラ警備隊なんだ」。
そしてタケナカ参謀はウルトラ警備隊活動再開に尽力する事を約束する。
ウルトラ警備隊を「人材」と定義した事はウルトラセブンを「ウルトラ警備隊7人目の隊員」とした事に繋がっている。

 

活動休止に追い込まれたウルトラ警備隊は隊服を脱いで基地を後にする。
この時のシラガネ隊長を除いた5人の姿を見て、ちょっとスーパー戦隊を思い出した。カザモリ、シマ、ミズノ、サトミ、ルミの5人できれいに色分けできると思う。
シラガネ隊長からビデオシーバーがコールする時にウルトラ警備隊は出動すると言う言葉を聞いて各々ビデオシーバーを手にするが、ビデオシーバーを変身道具に見立ててもいいかもしれない。
とりあえず、グリーンの役は決まっている。(オーグリーン)

 

裏で事件の糸を引いている存在を単独で調査するシラガネ隊長は「明日を捜せ!」のキリヤマ隊長を思い出す。
シラガネ隊長は市民を扇動していたマスコミ人を発見し、さらに逃げたマスコミ人を捕まえたダンとも出会う。
シラガネ「あなたはフルハシ参謀の……」、
ダン「古い友達だ。どんな最新鋭のシステムより侵略者にとっては君達ほど恐ろしい存在はいない。センサーに感じられないものを、レンズにも映らないものを、そしてデータにも残らない事も人間は感じとれる力を持つ。心を持つ。人間なら、フルハシ参謀に選ばれた人間だと言う誇りを忘れずに戦ってくれ」。
フルハシ参謀が選んで育てた子供達であるウルトラ警備隊をフルハシ参謀の同僚だったダンが密かに助けていく構図が上手い。
因みに後の『EVOLUTION5部作』ではフルハシ参謀が選んで育てたウルトラ警備隊とダンが選んで育てたカザモリがそれぞれ別の位置から事件に関わるようになる。
ところでこの場面、ダンの台詞の途中で道に捨てられたマスコミ人がちょっと気の毒。

 

自分を追ってきたシラガネ隊長に向かってヴァルキューレ星人は異なる文明人が出会った時は先に敵を滅ぼした方が生き残れると地球人から学んだと告げる。
そして、おでん屋で酔っぱらっていたカザモリとシマ隊員のビデオシーバーにシラガネ隊長からの通信が入る。おでん屋で酔っぱらう場面はドラマではよく見られるがウルトラシリーズでは珍しい。TVシリーズではないオリジナルビデオシリーズだから出来た場面であろう。
翌日、砂丘に集結した5人はルミ隊員が退職金代わりに持って来たと言う隊服に袖を通す。(本当は黙って持ってきたのでは……)
そこにシラガネ隊長がやって来て、ミズノ隊員が開発した生命残像波動アナライザでは宇宙人の波動は探知されなかったが、やはりヴァルキューレ星人に乗っ取られていた。最初はヴァルキューレ星人の波動を探知できた生命残像波動アナライザが役立たずになってしまったのはヴァルキューレ星人が何か対策を講じていたのだろう。
ゲームだ殺し合えと言って次々と隊員を乗っ取っていくヴァルキューレ星人。ヴァルキューレ星人に乗っ取られた隊員の悪役演技があまりにもステレオタイプだったのでちょっと興醒めしてしまう。
この砂丘は小説版では地球防衛軍の演習場となっている。かつて侵略者の魔の手から地球の平和を守る為に皆が汗を流した場所で今は仲間同士が疑い殺し合っていると言うのは皮肉な展開。
ヴァルキューレ星人に翻弄されるウルトラ警備隊の姿は直前にダンが言っていた「人間が持つ何かを感じとれる力」を使えているようには見えないのが残念だった。良い台詞だったのに……。

 

ヴァルキューレ星人が最後に乗っ取ったのはカザモリ。そこに現れたダンはウルトラ警備隊を全員倒してヴァルキューレ星人が乗っ取ったカザモリと一対一になる。(1人勝手に気絶した人がいるが)
ダンは「どんな機械を騙せても心ある者の眼は誤魔化せないぞ」とヴァルキューレ星人を追い詰めるが、心ある者であるウルトラ警備隊はしっかり翻弄されていたような……。
ヴァルキューレ星人は自分を撃てばカザモリも死ぬと脅すがカザモリは自分に構わずヴァルキューレ星人を撃てと言う。この葛藤の場面もよく見る演出でイマイチ。個人的にはカザモリがヴァルキューレ星人を追い出そうとする展開が全く無いのが残念だった。
今回の話はフルハシ参謀とカザモリが死ななければならないのは分かるが、その為にやや強引な展開になってしまったのは否めない。
葛藤の末、ダンは遂にカザモリを撃つ……!
ヴァルキューレ星人は次にダンの体を乗っ取ろうとするが、ダンの体と魂がヴァルキューレ星人を否定して追い出す。ダンがウルトラマンだったからなのかな。

 

ダンの体を追い出されたヴァルキューレ星人は醜い姿を現すのだが、確かヴァルキューレ星人は肉体を持たないはずなのに、どうして巨大化や実体化が出来たのだろうか?
似た設定である『80』の「白い悪魔の恐怖」に登場したアルゴ星人はビルの材料を利用したと言う設定があるが、ヴァルキューレ星人が周りにあるものを利用したようには見えない。
ダンはヴァルキューレ星人の心のままに醜い姿を現したと言っているが本当は肉体を持たないと言うのは嘘で普段は姿を消していただけなのかもしれない。
セブンとヴァルキューレ星人の戦いは燃える砂漠が舞台なのが格好良いが、醜悪なヴァルキューレ星人のデザインが狙いすぎであまり好みではない。

 

戦いが終わった後、セブンは倒れるカザモリの所に駆け寄る。
カザモリ「また……あんたに助けられたな……」、
セブン「フルハシさんのいない地球にこの私を呼び戻したのは君達の力だ」、
カザモリ「役に……立ったのかな? 少しは……地球の為に……」。
セブンの頷きに満足して力尽きるカザモリ。そして仲間の待つ所にカザモリが帰って来た。
どうやらセブンが地球に帰って来たのはフルハシ参謀の死とウルトラ警備隊の存在が関わっていたらしいが、前者はともかく後者はやや説明不足だった気がする。
セブンの腕の中で力尽きるカザモリはダンの腕の中で息絶えたフルハシ参謀と繋がっているのだろう。

 

参謀会議でフルハシ参謀の潔白が証明され、ウルトラ警備隊の活動再開が決定される。
そして存在が確認されたヴァルキューレ星人はフレンドシップ計画を前進させる為のシミュレーションに利用された。
衛星ヴァルキューレにミサイルが撃ちこまれるラストシーンの衝撃度はウルトラシリーズでも屈指のものであった。

 

ムーンベースから地球を見てダンは呟く。
「フルハシさん……。人類はまだ続けているよ……。血を吐きながら続ける、哀しいマラソンを……。しかし、最後の希望は捨てない! あなたが育てた子供達がいる限り!」。
そう言って振り返るダンの顔はカザモリになっていた。
そう言えば『セブン』の「超兵器R1号」でダンはこの言葉をフルハシ隊員に向かって言っていた。この時は超兵器開発に賛成していたフルハシが今度は反対していたフレンドシップ計画の犠牲になってしまうとはなんとも皮肉だ。

 

「地球に辿り着いた宇宙人達の信じがたい能力を前にして我々の祖先は彼らの事をこう考えたに違いない……。善をよく為す者を「神」と……。悪をよく為す者を「悪魔」と……」

 

佐々木功さんが歌う『ウルトラセブンのバラード』が渋い!