帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「平和の星」

「平和の星 -メノーファ ナルチス星人登場-
ウルトラマンダイナ』第33話
1998年4月25日放送(第33話)
脚本 長谷川圭一
監督 小中和哉
特技監督 佐川和夫

 

超悪質宇宙人ナルチス星人
身長 180cm
体重 67kg
科学で心の中のマイナスエネルギーを全て抹消する事に成功して争いの無い「平和の星」を誕生させたと語る宇宙人。
マイナスエネルギーと一緒に戦う力も失ってしまった為、宇宙を食い荒らす地球人を恐ろしいと感じ、地球人のマイナスエネルギーを吸い取って生物兵器メノーファを作ろうとする。スーパーGUTSに追い詰められると自らをメノーファに取り込んでマイナスエネルギーの赴くまま破壊活動を繰り広げた。
地球人の行為を野蛮と断じて自らの行為を正当防衛と述べるがやっている事は侵略と変わりない勝手な事ばかり述べる偽善者野郎。
名前の由来は「ナルシスト」かな。

 

生物兵器メノーファ
全長 164m
体重 18万t
ナルチス星人が地球人の心の中のマイナスエネルギーを吸い取って作った生物兵器
ナルチス星人本人も融合してマイナスエネルギーの赴くまま破壊活動を繰り広げた。
光弾を発し、電流を放つ。ソルジェント光線も通じなかった。
ナルチス星人はどんな攻撃にも傷付かないと豪語していたが完成前にハスミが鉄パイプを投げつけていた部分が弱点となり、アルファSによって傷口を広げられると最後はドリル状に回転したダイナ・ストロングタイプにぶち抜かれて爆発四散した。
触手のみ「夢のとりで」のディプラスのボディーを流用している。

 

物語
スーパーGUTSの武装強化に異議を唱え、ヒビキ隊長に食って掛かる記者のハスミ。
ある朝、ハスミの部屋に謎の少女と猫が現れ、奇妙な依頼を受ける事になる。

 

感想
『ティガ』と『ダイナ』は同じ世界でありながら作品の雰囲気は随分と違っている。今回はその『ティガ』から『ダイナ』への変化を取り上げた『ティガ』の「南の涯てまで」の『ダイナ』版と言える話。

 

GUTSは科学者中心の組織だったがスーパーGUTSは戦闘集団の色合いが強いと非難するハスミ。
事実、『ティガ』の第1話から『ダイナ』の現在まで様々な新兵器が登場して戦力が増強されていて、今回の話も新戦力のアルファSのお披露目回となっている。

 

ハスミの非難に対してヒビキ隊長は「自分達の目的は戦う事ではない。しかし、人間が前へ進もうとする時、新たな未知へ挑もうとする時、そこには避ける事の出来ない戦いがある」と答える。
なるほどと思わず納得してしまいそうだが、この理屈だと開拓による原住民との争いを肯定してしまう恐れがある。ハスミが「聞こえのいい言葉こそ危険なものはない」と言ったように誤魔化しの答えとも言える。
結局今回はテーマがスーパーGUTSの武装強化から家族の問題に移ってしまったので、この問題は有耶無耶のまま終わってしまう。

 

ハスミの部屋には病気療養後初めての公務で火星基地を視察したサワイ前総監、スーパーGUTSに入隊したアスカ、ヨシオカ警務長官と肩を並べるヒビキ隊長の写真が貼られてある。これによってヒビキ隊長が元警務局員だった事が分かる。

 

スーパーGUTSの新戦力アルファSが登場。
マスコミに向けて新戦力を紹介するのはウルトラシリーズではあまり無い。
デザイン的には旧α号のガッツイーグルがウルトラ警備隊のウルトラホークで、アルファSが科特隊のジェットビートルと言った感じ。
命中精度に拘ったと言う説明の通り、メノーファの弱点に見事命中させている。

 

ハスミが朝起きると猫とソノカと名乗る少女がいて奇妙な依頼を持ち込んでくる。
今回は売れない私立探偵を主人公にした作品みたいで、音楽や夜中に部屋に入り込むネオンやハスミのモノローグ等に雰囲気が出ている。売れない私立探偵の車はやっぱり小さかった。

 

村石監督がマスターを演じるジャズバーが再登場。
壁にはイルマとムナカタ、オノダとハズキ、オノダとハスミの写真が貼られてある。
マスターも壁に貼ってある写真も何一つ変化が無い。この店は時間が止まっているのだろうか……?
エンディングでは小中監督がやって来るなど色々な人が集う場所となっている。

 

今回の話は『ティガ』のムナカタとオノダの話をイメージしたものとなっている。
今回は副隊長であるコウダではなくヒビキ隊長が主役となっているが、あのジャズバーの雰囲気にはコウダよりヒビキ隊長の方が合っている感じがするので仕方が無いかな。コウダはジャズバーで静かに飲むより居酒屋等で後輩をたくさん連れて奢っているイメージがある。

 

今まで一緒に遊んでいた不良の仲間達が次々に真面目になっていく。これは宇宙人の仕業に違いないと訴えるソノカに対して、ハスミは前から飽きていた奴らが申し合わせて一斉に辞めたのだろうと考える。
宇宙人に関わった人間は怪しんでくれと言わんばかりの不自然な言動を取る事が多いので、いきなり真面目になったショウが冷たい態度を取らないでソノカの事を考えた答えをしたのは自然で良かった。
ただ、不良達の演出があまりにも駄目で見ているこちらが恥ずかしくなってしまうのが残念。『ガイア』でチーム・クロウが聴くロックや『コスモス』でラップを歌う若者達も似た感じだったが、もう少し若者の演出を上手くやってほしいなと思う。ウルトラシリーズに限らずヒーロー作品の若者描写は古いと言うかステレオ的なところが多々見られる。

 

絵に描いたように幸せなショウの家族を見て幸せだった頃の自分の家族を思い出すハスミ。ソノカは幸せすぎて気味が悪いと漏らすが、ハスミは家族が一緒にいない方が不自然だとして、帰れる家があるのなら本当に戻れなくなる前に帰れとソノカを追い出す。
ここは家族が無くなる事を想像できない実感できないソノカと本当に家族を無くしてしまったハスミの違い。

 

その後、ソノカに呼び出されたハスミが向かうとソノカは実は全部嘘だったと告げる。
口うるさい父親を困らせようとありもしない宇宙人話をでっち上げて父親と仲の悪い人を選んで探偵ごっこをしていた。そして父親が自分を迎えに来てくれるのを待っていただけだったと告白する。
そこに現れるソノカの父親ヒビキ・ゴウスケ。父親に抱きついて泣いて謝るソノカ。
普通のドラマならここで終わりになるのだがウルトラシリーズなのでここから宇宙人と怪獣が出てくる。
でも、ソノカがハスミや父親に告白した話はあながち嘘でもなかったと思う。イルマもだったがヒビキ隊長も家庭に色々な問題を抱えていた。ウルトラシリーズの隊長で家庭が出て特に問題が無かったのって『帰マン』の伊吹隊長くらいかな?

 

ナルチス星人が地球人から吸い取っていた心の中のマイナスエネルギーとは闘争や反抗心と言ったもので生物兵器すら作れるほど強大なものであった。
マイナスエネルギーと言えば『80』で、今回の話は『80』でやってもあまり違和感が無かったと思う。アスカは今回殆ど目立てなかったが矢的猛だったら子供達や親に適切なアドバイスが出来ただろうな。

 

ソノカを守って腕に怪我をしたヒビキ隊長だったが「喧嘩相手に肩を借りるほど柔じゃねぇ」とソノカをハスミに預けてメノーファに立ち向かう。
そのままアルファSに乗って、自分を心配するハスミに「お互いプロだろう? カメラの準備は良いのか?」と言う場面が格好良い。
メノーファとの戦いをカメラに収めるハスミはそこでメノーファの弱点に気付く事になる。

 

メノーファの弱点に攻撃を加えようとするヒビキ隊長。
ナルチス「あの娘の父親か? 皮肉だな。もし俺を倒せば、キサマの娘はまた憎しみの化身へと戻るのだぞ? それでも撃つのか? お前に」、
ヒビキ「ソノカ! 俺の事を許せないならそれでいい! 憎んだってかまわねぇ! それが本当のお前だったら、全部キッチリと受け止めてやるぅー!!」。
ヒビキ隊長の攻撃がメノーファを貫き、ダイナによって止めが刺される。そして、ナルチス星人が吸い取っていた怒りや憎しみが人々に解放されるのだった。

 

ハスミが「仮に宇宙人の仕業だとしても手に負えない不良どもがいい子になって家族に平和が戻る事のどこが悪い」と語る場面がある。一方、ヒビキ隊長は娘の憎しみも全て受け止めると叫んでいる。この愛も憎しみも矛盾も全て受け入れると言うヒビキ隊長の生き方は最終回の「明日へ…」に繋がる。
都合の悪い部分を抹消して都合の良い部分だけを見るのではなく、都合の良い部分も悪い部分も全部キッチリ受け止める事が出来るヒビキ隊長は凄い。

 

ウルトラマンダイナSPECIAL 総力特集ティガ・ダイナ』では元不良の仲間達とバンドを組んだソノカが今度ライブで演奏する曲をヒビキ隊長に聴かせたり、ヒビキ隊長がハスミからジャズバーの事を教えてもらって常連になったり、ヒビキ隊長とイルマがウルトラマンについて語るエピソードがある。

 

今回の話のリメイクとして、今回の脚本を担当した長谷川さんによって書かれた小説『平和の星・ジ・アザー』が発売されている。