帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「最終章Ⅲ 明日へ…」

最終章Ⅲ 明日へ… ーグランスフィア ネオガイガレード登場ー
ウルトラマンダイナ』第51話
1998年8月29日放送(第51話)
脚本 長谷川圭一
監督 小中和哉
特技監督 大岡新一

 

暗黒惑星グランスフィア
全長 1万2756km
体重 計測不能
かつては人類と同じような人間で限りある命に怯えて互いに争い、遂には自らの星をも破滅への危機へと追いやったが、人だけでなくあらゆる有機物や無機物、遂には惑星自体も一つに融合する事でそれらを克服した。
自らを「完全無欠な生命体」「地球の歩むべき未来」だと語り、人類を自らに取り込もうとした。
亜空間バリアーでネオマキシマ砲の攻撃を防ぐが、亜空間バリアーを一転に集中させた隙にがら空きになった箇所にダイナ・フラッシュタイプのソルジェント光線を受けて爆発、消滅した。

 

合成獣ネオガイガレード
身長 69m
体重 8万t
リョウを人質に取ってネオマキシマ砲の発射を阻止しようとするが、ダイナのパンチで亜空間バリアーごと倒され、ネオマキシマ砲で消滅させられた。

 

物語
ネオマキシマ砲もグランスフィアに通じず、絶望が人々を襲う。それでもアスカはまだ諦めていなかった。
人類の未来を懸けた最終決戦が今始まる!

 

感想
太陽系消滅」の続き。

 

アスカによってクラーコフに辿り着いたリョウは「「君だけを守りたい」なんて正義の味方の台詞じゃないわよ」と言う。
言われてみれば確かにウルトラシリーズではあまり聞かない言葉である。アメコミ映画だと主人公が戦う理由にヒロインの存在が大きく関わる事が多いがウルトラシリーズだと意外と少なくて「皆を守りたい」となっている事が多い。ここは人間大なので戦いの規模を主人公の周辺に抑える事が出来るアメコミヒーローと巨大なのでどうしても戦いの規模が大きくなってしまうウルトラマンの違いなのかもしれない。

 

グランスフィアが世界の主要都市に現れて人類に向けて宣告をする。
おそらくこれは漫画『デビルマン』の魔王ゼノンをイメージしていると思われる。あれはかなりのインパクトがあった。

 

「地球人類よ。その者達へと同化せよ。その者達もかつて、お前達と同じような人間であった。限りある命に怯え、互いに争い、遂には自らの星をも破滅への危機へと追いやった。だが彼らは克服したのだ。人を、あらゆる有機物無機物を、遂には惑星自体も一つに融合し完成させた完全無欠な生命体。それが私だ。まだ間に合う。地球が滅び去るその前に私はお前達を迎え入れよう」。
全ての存在を一つに融合したと言うグランスフィア。『G』のゴーデスから『コスモス』のカオスヘッダーまで平成のウルトラシリーズはこういう敵が多かった。『ダイナ』の場合、時期的な事を考えると『新世紀エヴァンゲリオン』の「人類補完計画」も影響があったと思われる。(グランスフィアの一人称に「私」と「その者達」が混ざっているのも人類補完計画のように自分と他人の存在が曖昧になっているのかもしれない)

 

話を聞いたナカジマは「人間の科学力が生態系を改造できれば自然破壊による滅亡を回避できる」とグランスフィアの主張に理解を示す。
確かに人間の最終目標が滅亡や死と言った問題の解決ならばそうであろう。しかし、ヒビキ隊長はそれに異議を唱える。
「でもそれは「生きてる」って言えるのか? 死が無くなる代わりに、夢も、ロマンも無くした世界。本当に俺達が目指している未来なのか? 不完全でいいじゃないか!! 矛盾だらけで構わねぇっ!! ……人の数だけ夢がある。俺はそんな世界の方が好きだ……」。
グランスフィアのような全ての問題が解決され全ての目的が達成された世界で人間は一体何をして生きていけば良いのか。人間は問題があるから困難があるからこそ、それらを克服しようと頑張る。これこそが人間が生きている証なのだ。大事なのは問題の克服と言う結果よりも問題を克服しようとする過程なのかもしれない。
『ダイナ』が掲げるネオフロンティアの精神、それは常に何かに挑戦し続ける心である。

 

クラーコフに帰還したアスカを抱き締めて「信じていたぜ。こうやってまた仲間の元へ帰って来てくれるってな」と告げるヒビキ隊長。
ところでスーパーGUTSは前回から今回にかけての衛星ガニメデでのネオマキシマ砲発射時にアスカはどこにいたと思っていたのだろうか?
状況的にリョウと一緒にガッツシャドーに搭乗していたしかないのだが、ネオガイガレードがガッツシャドーを掴んだ時に皆はリョウの事しか心配していないんだよなぁ……。

 

いつも後先考えずに突っ走ってその場でどう動くか決めていたアスカだが、今回はグランスフィアの亜空間バリアーが一点にしか張られないと言う状況を分析して、釣り球を振らせて勝負球をぶち込むと言う作戦を立てている。又、今まで一人で突っ走る傾向が強かったが今回は皆の協力を考えた作戦になっている。成長したなぁ。

 

ナカジマにどこにいたのか質問されたアスカは返答に困るが、そこでヒビキ隊長が代わりにアスカの秘密を語る。
「お前は目立ちたがり屋の単細胞野朗だ。そんなお前が今まで黙っていた。自分がダイナだって事を……。何故だ? 何故一人で苦労を背負い込む?」。
ヒビキ隊長の質問にアスカは「俺は確かに目立ちたがりだけど……、それ以上に照れ屋なんスよ」と答える。
当然、これは本気の答えではなくてアスカなりの照れ隠しで、「最終章・完全版」では「自分がダイナである事を知ったら皆が怯えるんじゃないかと思って怖かった」と言うアスカの心情が明かされている。

 

「ネオマキシマ砲を封じられて勝算はあるのか?」と疑問を口にするフカミ総監に「部下達をまず信頼するのも総監の役目だ」と忠告してサワイがやって来る。
ここでフカミ総監が「サワイ総監……」と驚いているが「最終章・完全版」ではその続きがあって、「(私は)前総監だよ。今の総監は君だ。自分の育ててきた組織を、それを支える前線の人間を、もっと信頼してやったらどうなんだ?」と言うサワイの言葉にフカミ総監が頷いている。
思えばスーパーGUTSは旧GUTSとの差別化が出来ていたがフカミ総監はサワイとの差別化が出来ていなかったところがある。フカミが総監として活躍するのはサワイに総監としての心構えを説かれたこれからなのかもしれない。

 

クラーコフのネオマキシマ砲でグランスフィアの亜空間バリアーを一点に集中させ、その隙にダイナのウイニングショットで仕留めると言うスーパーGUTSの作戦。ウルトラシリーズウルトラマン込みで作戦を立てるのはかなり珍しく、これ以前では『レオ』くらいしか思いつかない。もはやダイナは人間から遠くかけ離れた存在ではなく、同じスーパーGUTSの隊員アスカとなった事が分かる。

 

アルファSの整備をするナカジマは珍しく自分の身の上話をする。
アスカ「さっき俺が戻った時、隊長に反論されてたでしょ」、
ナカジマ「うん。なんかねー。ひっさびさに親父の事思い出しちゃった。隊長に言われた言葉、まるで親父にそっくりだった。一流の学者なのにさぁ、夢だのロマンだの、まるっきりお金には縁遠くて結構家族は苦労したんだよ。俺も恨んだ。親父の生き方なんて駄目だとも思った。だから俺は絶対に人に認められる科学者になってやる。そう思った。……そして、なった。けどな、俺が今こうやって頑張っていられるのはさ、親父のおかげなんだよね。俺、どっかで親父の事尊敬しているよ。俺は、ずーと、誰が何と言ようが、どう言われようが、俺は親父の事が好きだった……。矛盾だわ、これ。矛盾。俺の嫌いな矛盾だね」、
アスカ「でもそれって素敵な矛盾っすよ。俺も親父に負けないように頑張ります」。
小野寺丈さんの名演技が光る『ダイナ』でも屈指の名場面
この年に亡くなられた小野寺さんの父親である石ノ森章太郎さんの存在が頭に浮かぶ。
そう言えば『ダイナ』は父と子がテーマの一つだったのにアスカ以外のスーパーGUTSに父親との話が無かったのは意外だった。(ヒビキ隊長とソノカくらいかな)

 

出撃前のアスカにコウダ副隊長が「闇の破壊と同時に巨大な重力崩壊が生じて光ですら脱出は不可能」「今度ばかりはいつもと違う。時空の歪みに飲み込まれたら二度と帰って来られなくなる」と注意するがアスカは皆の不安を振り払うかのように「大丈夫です! 俺は帰って来ます! 次にそらを飛ぶ為に……、その次もまた、そらを飛ぶ為に……。俺は必ず帰って来ます」と答える。
アスカの言葉はかつてカズマがアスカに告げた言葉と同じであった。そしてカズマは……。
尚、TV放送版ではダイナは闇に飲み込まれているが「最終章・完全版」ではワームホールが生じて全く別の宇宙に飛ばされたとなっている。闇に飲み込まれたとワームホールで別の宇宙に飛ばされたとでは感じるイメージがかなり違う。『ウルトラ銀河伝説』以降のアスカは様々な宇宙に現れているので現在はTV放送版ではなく「最終章・完全版」が公式になっているのかな。

 

アルファSで出撃するアスカの姿をコスモネットで多くの人が見ていた。
アスカはリーフラッシャーでダイナに変身。それをコスモネットで見ていたミシナ教官は「カズマ見てるか? お前の息子だ」と呟く。と言う事はアスカがダイナに変身するところを人類全てが目撃していたわけか。ウルトラシリーズでここまで多くの人に正体がバレるのは珍しい。
運命の光の中で」でカズマは皆の夢も託せるような大きなものの為に飛んでいたと語られていたが今回のアスカも人類皆の希望を背負って飛び立つ事となった。

 

出撃するアスカにリョウが尋ねる。
「一度聞きたかったんだけど。どうしてそう前にばかり向かおうとするの?」。
その質問にアスカは「それが人間だから……。親父が教えてくれたんだ。人間は前に進む力を持っている。だから今、俺達はここにいる」と答える。
その答えに満足したリョウはマイにその場を譲る。
「マイ、ダイナなんてカッコイイ名前付けてくれてサンキュ! 結構気に入ってたんだぜ!」と言うアスカの言葉にマイが泣きそうな顔で答える。
「ダイナミックのダイナだよ……。ダイナマイトのダイナ……。そして……大好きなダイナ」、
「ありがとな、マイ」。
そしてアスカはリーフラッシャーを見つめて「父さん、行くぜ」と呟く。
リーフラッシャーから光が放たれ、アルファSを超えて一つの光、ダイナが現れる。
そんなアスカをリョウは「いってらっしゃい」と力強く送り出すのだった。
最終回に番組タイトルの意味が明かされる事がある。「大好きなダイナ」はこれまで伏線等が貼られていなかったので唐突と言えば唐突なのだが、それでも良いなぁと思える不思議な台詞であった。

 

迫るダイナに向かってグランスフィアは「お前は何だ?」と問いかけ、続けて「闇に溶け、地球は正しい進化を遂げる。お前には何が出来る?」として怪獣達を差し向ける。(「最終章・完全版」ではビシュメル、ゾンボーグ、ギアクーダ、バゾブの姿が確認できる。選考の基準がいまいち分からないメンバーだ)。
「闇に溶けよ。私に従え!」と言うグランスフィアの言葉をダイナは「ふざけるなぁ!!」の一言で怪獣ごと一刀両断する。
グランスフィアは宇宙全てを自分の闇に塗り込めようとする存在で、ダイナは自分の光で闇に切り込んでいく存在。どちらの未来に可能性があるのか答えは明白である。

 

グランスフィアの「お前は何だ?」と言う問いに対してダイナは「俺は俺だ! ウルトラマンダイナだぁー!!」と答え、ネオマキシマ砲で脇ががら空きになったところにソルジェント光線を命中させる。
『ティガ』の「石の神話」でダイゴは「俺は俺だ! ウルトラマンティガなんかじゃない!」と自分がウルトラマンである事を受け入れなかったが、2年間続いてきたシリーズの最後でアスカは「俺は俺だ! ウルトラマンダイナだ!」と自分がウルトラマンである事を受け入れたのだった。

 

グランスフィアを倒したダイナだったが、それによって生じた重力崩壊に飲み込まれてしまい、「負けるかぁぁっー!!」と言う言葉を残して消えてしまう。
光であるダイナも闇であるグランスフィアも消滅した宇宙。
破壊されたバイオパークの植物を直すダイゴも何かを感じて「光……」と呟く。そこにレナとヒカリがやって来る。
グランスフィアに飲み込まれた全ての惑星が戻ったがアスカだけは帰って来ない。アスカは死んでしまったのかと皆が悲しみ混乱する中、リョウは力強く語る。
「アスカは帰って来る……。いつか必ず……。アスカがそう約束したから……。アスカは今も飛んでるわ……。前へ向かって……」。
目覚めたアスカは光の中にいた。目の前にいるのはプラズマ百式と父カズマ。
遂にアスカは父親に追いついたのだった。満足そうに微笑み合う二人。
そのまま二人は前へ向かって飛んでいく。やがて二人の光は宇宙に一つの星を生み出した。
カリヤ「あれは?」、
マイ「星! ウルトラの星」、
ナカジマ「ウルトラの星、か……」、
ヒビキ「俺達も行こうじゃねぇか。アスカに追いつけるようにな!」、
リョウ「隊長……」、
コウダ「ラジャー!」。
最初の人間となった猿達の時代から人間は誰かが新しい世界へと歩み出してその後の人間達にとっての道標となっていった。道標によって深い谷を越えて果てしない海を越えて遂には宇宙へと飛び出していった人間。カズマと言う道標によってアスカは光を掴んでウルトラマンとなり、今度はウルトラマンとなったアスカが人間達の道標となった。アスカが生み出したウルトラの星を道標にスーパーGUTSは新たな光溢れる世界を目指す事となる。
ヒビキ「夢を信じられる限り、光はそこにある!」。

 

『ダイナ』ではアスカが遭遇した光について具体的な説明は無い。(本作のメインライターである長谷川さんが谷崎あきらさんと執筆した『ウルトラマンダイナ 未来へのゼロドライブ』ではダイナの光の正体について一つの答えがハッキリと語られているが)
『ティガ』で人間は光になれると語っているので人間の進化した姿が光=ウルトラマンと考えられる。ウルトラマンと言う進化した存在と触れる事で人間に新たな世界への道が開け、それが『ティガ』のグリッターティガや『ダイナ』のカズマやアスカと言った人間のウルトラマン化に繋がっていったのかもしれない。(そう考えると『ティガ』で人間をウルトラマンに進化させようとしたマサキ・ケイゴの考えはそれほど間違っていたわけではない事になる。強制的に進化させるのは色々無理があったが)
だが、人間がウルトラマンに進化したら全ての問題が解決するとは限らない。それはウルトラマンになりながらも暴走してしまったマサキや『THE FINAL ODYSSEY』での巨人達の争いで証明される事になる。

 

『ダイナ』で最もファンの議論に上がったのが最終回でのアスカの結末。アスカは生きているのか死んでいるのか……。『ウルトラ銀河伝説』で生存が確認されたが『ダイナ』最終回のTV放送版だけでは死んだと思われても仕方が無いところがあった。
ただ、「新たなる影」で一般には命日とされているカズマが光の中に消えた日をアスカが記念日にしたように、この話もアスカの死と言うマイナスの要素のみを取り出すのではなく、そこから何かプラスの要素を見付け出すのが大事なのかもしれない。

 

「本当の戦いは、これからだぜ!」。

 

今回の話は大岡監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。
大岡さんは2008年に円谷プロの社長に就任すると組織や経営の改革や版権問題の解決等に尽力した。