帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「人間転送機」

「人間転送機 ータブリス登場ー
ウルトラマンコスモス』第54話
脚本 大西信介
監督 石井てるよし
特技監督 佐川和夫

 

分身怪獣タブリス
身長 54m
体重 5万9千t
鏑矢諸島の朋友島に住むSRCが最も初期に捕獲した怪獣。
12年前、ニュータウンの建設ラッシュの乱開発で眠りを妨げられるが、逃げ遅れた守沢佳奈を庇って防衛軍の攻撃を受け続けた。当時はSRCが発足したばかりで「怪獣は倒して当然」と誰もが考えていたが、この事件が知られるとタブリスの保護を求める世論が高まり、怪獣の対策に保護や捕獲の選択肢が加えられる事となった。
「10年経ったら会いに来る」と言う佳奈の言葉を信じて再び会う為に夢川町に自分の分身を出現させた。物体ファクシミリで複製の佳奈との偽りの再会を仕組まれた事に怒るがコスモスによって本物の佳奈と再会できた事で笑顔を取り戻した。
当初は「ダブリス」と言う名前の予定だったが商標登録の関係で「タブリス」に変更されたらしい。「ダブリス」の由来は「ダブル」かな?

 

物語
鏑矢諸島の朋友島にいるはずのタブリスが夢川町に突然現れた。
タブリスの事を調べなおしたムサシ達はある女性の存在に辿り着く。

 

感想
『コスモス』の世界で最重要の存在であるタブリスが登場。
防衛軍の攻撃を受けても逃げ遅れた少女を庇った怪獣として保護を求める世論が起き、それが現在の怪獣保護へと繋がっていった。
タブリスは『THE FIRST CONTACT』を手がけた飯島監督の『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』に登場したダイゴロウを思わせるデザインになっている。『ダイゴロウ』は怪獣を攻撃するのではなく保護していこうと言う『コスモス』に通ずる内容になっているので未見の人はぜひ一度見てほしい。

 

アヤノ隊員はタブリスがきっかけで怪獣保護が広まった事を知らなかった。一般市民ならともかくEYESの隊員が知らないのは問題なんじゃないかな……。
因みにタブリス事件とSRC発足の時系列だが、次回予告ではタブリス事件がSRCの誕生に関係しているかのように語られ、本編ではSRCが発足してしばらくしてからタブリス事件が起きたと語られ、『THE FINAL BATTLE』のパンフレットではタブリス事件は13年前の1997年でSRC発足は2000年と記載されている等、それぞれ微妙に違っている。

 

タブリスに助けられた車椅子の少女・佳奈。
車椅子の少女と怪獣の友情にマスコミが飛びついて、マスコミ取材の中で佳奈とタブリスは朋友島で再会する。佳奈はタブリスの事は好きだし感謝もしていたが、事件がきっかけで怪獣保護の機運が高まった為に事あるごとにマスコミに引きずり出されてタブリスとの感動の再会をさせられる事が段々と重みになっていき、さらにただでさえ浮いた存在だったのがマスコミに取り上げられた事で本当に独りになってしまった。
その為、事件から2年ほど経過したある日、遂に佳奈は人間の友達も欲しいとして10年後に再会する事を約束してタブリスに別れを告げたのだった。
話を聞いたムサシはタブリスが夢川町に分身を送り込んだのは佳奈に会いたいからだとしてタブリスと会ってほしいと頼むが、佳奈は多くの人が犠牲になると分かっているがせっかく普通に暮らせるようになったのにまた普通の生活に戻れなくなるのが恐いと断ってしまう。
タブリスが保護されて怪獣保護の機運が高まったのも佳奈が特別な存在として祭り上げられて普通の生活が送れなくなったのもマスコミの力。マスコミの光と影両方を描いたのはウルトラシリーズでは珍しくて貴重。『コスモス』は他の作品以上に世論の動きが大きな力を持つ作品だったと思うので、マスコミ関係者がレギュラーで設定されていなかったのはつくづく残念であった。

 

再びマスコミに取り上げられる事を恐れて佳奈がタブリスと再会する事を拒否したので、ドイガキ隊員は物体ファクシミリで佳奈の複製を朋友島に送り込む事を考えるが佳奈はそれも拒否する。
それはそうだ。物体ファクシミリによる複製とは言え佳奈がタブリスと再会する事に違いは無いので問題は何も解決されていない。

 

今回登場した物体ファクシミリは実際の物体を転送するのではなく転送先の空間の分子を再構成して複製を作ると言うもの。まだ分子構造を完全に安定させる事が出来ないので触れるとすぐ壊れてしまうが凄い技術である事は間違いない。
今回はタブリスの能力にヒントを得て佳奈の複製を遠く離れた朋友島に送っているが、登場が唐突な上、実は物体ファクシミリのエピソードを外しても今回の話は成り立つので凄い技術ではあるが物語で上手く活かせていなかった。

 

ムサシは佳奈にタブリスと会ってほしいと何度も説得するが、佳奈の境遇を考えるとかなり無責任で身勝手な発言に聞こえた。タブリスと再会して再び佳奈が普通の生活を送れなくなったらムサシはどうフォローするつもりだったのだろうか。劇中で見る限り、ムサシはタブリスの心情を気にするあまり佳奈の心情を無視しているように見えた。どうもムサシは相手の事情を考えずに自分の考えを押し付けてしまうところがある。

 

佳奈が夢川町から引っ越した事を知らなかったタブリスは佳奈を探す為に朋友島から分身を送り込む。
タブリスが分身を作れると言う設定が唐突すぎたが、実際にタブリスが朋友島から脱出して夢川町で暴れてしまうと話がややこしくなってしまうので仕方が無いかな。
佳奈に会いたい触れたいと言う想いがタブリスに周りのものを現実として触れさせたが、コスモスにとって分身のタブリスは幻なので指一本触れられなかったとして、この手の話によくある「主人公の攻撃は当たらないが敵の攻撃は何故か当たる」を説明付けたのは上手かった。

 

ところで佳奈が夢川町から引っ越していたのでタブリスは分身を送り込んで街中を探し回る事になるのだが、最後に暴れるタブリスの所に車椅子の佳奈が会いに行けたのはどういう事だろうか……? 引っ越したのに短時間で車椅子で来れたとは考えにくいし、誰かに送ってもらった形跡も無いのだが……。

 

物体ファクシミリで複製の佳奈との偽りの再会を仕組まれた事を知ったタブリスは暴れ始めてしまう。大人しいタブリスが暴れる事に佳奈は信じられなかったが自身の友達を失って独りきりで寂しい想いをしていた頃を思い出してタブリスの寂しかった想いを感じる事が出来た。
そしてエクリプスモードによって佳奈は朋友島に送られ遂にタブリスと再会を果たす。
「タブリース! 遅くなってごめん……。私、自分の事しか、自分の寂しさしか考えていなかった……。もう……寂しがらなくていいよ、タブリス。私、何度でも会いに来る……。ごめんね、タブリス……」。

 

今回の話は石井監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。
この後、石井監督は超星神シリーズやインドネシアのヒーロー作品『ガルーダの戦士ビマ』を手掛けている。