帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』

ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』
2001年7月20日公開
脚本 千束北男
監督 飯島敏宏
特技監督 佐川和夫

 

宇宙忍者バルタン星人
身長 50m~51m
体重 3万5千t~4万5千t
地球とは異なる宇宙にあるバルタン星からやって来た。
ベーシカルバージョンと呼ばれる通常体、空中移動が得意な飛行体、全身を武器の塊に変えたネオバルタンと呼ばれる戦闘形態を持つ。
破滅に瀕したバルタン星から子供達を連れてノアの箱舟と呼ぶ廃月に乗って地球にやって来た。
自分達の星に戻るよう説得するコスモスと戦うがコロナモードのブレージングウェーブを受けて敗北を悟ると自爆する事で全ての罪を請け負う。その後、チャイルドバルタン達によって亡骸を自分達の星へと戻された。
今度のデザインには従来のセミの他にクワガタの要素も混ぜられているらしい。

 

チャイルドバルタン
身長 120cm
体重 15kg
マリに憑依してムサシの輝石を奪うと最初の戦いのダメージが回復していないコスモスを呼んで倒そうとするが、地球人とバルタン星人は共存できると言うムサシの言葉に迷い、地球人とバルタン星人の全面戦争を止める為にコスモスを呼んでほしいとムサシに頼む事となる。戦いが終わった後、地球人にメッセージを残して、大人のバルタン星人の亡骸と共にノアの箱舟で自分達の星に帰った。
マリに憑依したチャイルドバルタンの名前は「シルビィ」。バルカン半島説と共にバルタン星人の名前の由来になったとされている歌手のシルヴィ・ヴァルタンに因んだと思われる。

 

伝説薬怪獣呑龍
身長 67m
体重 6万7千t
「神農様」と呼ばれる薬の神の遣いとされる伝説の怪獣。
鱗を煎じて飲めば結核に効くと言う言い伝えがある。
遺跡公園に眠っていたところをバルタン星人に目覚めさせられた。
デビュー戦となったSRCのSRC作戦ACT1で凍結させられるがシャークスのJK軍団の一斉攻撃で倒されてしまう。その後、SRCによって遺跡公園に無事に戻された。
手(前足?)を排した二足歩行と四足歩行の間を狙ったデザインが斬新。
『初代マン』の「科特隊出撃せよ」のネロンガがモデルかな?

 

スーパーハイテクロボットクレバーゴン
身長 60cm~130cm
体重 9kg
ムサシがゴミ捨て場から拾ってきた物を木本博士が直した。
宙に浮き、パラボラアンテナで様々な情報を探知し、目から出す光線でマリに憑依していたチャイルドバルタンの正体を見破る。凄いな、木本博士。
途中で壊れてしまうが木本博士によって直された。
『セブン』の「勇気ある戦い」のクレージーゴンがモデル。

 

物語
ウルトラマンの存在を信じていて宇宙飛行士になる事を夢見ている春野ムサシ。
ある嵐の過ぎ去った朝、ムサシは実体を失いかけたウルトラマンコスモスと出会う。

 

感想
劇場版から物語が始まるのはウルトラシリーズでは初めての試み。だが、劇場版を2001年3月に公開してTVシリーズを10月から始める予定が劇場版の公開が遅れてTVシリーズの放送が円谷英二監督の誕生日にあたる7月7日に合わせて繰り上げられた事で物語の流れと公開の順序がズレてしまったのが残念。

 

初期ウルトラシリーズに関わった飯島監督が30年振りにウルトラシリーズに復帰した。
飯島監督は平成時代の子供作品に対して色々と気になるところがあったらしく、本作はそれらに対するアンチテーゼとなっているところがある。
本作は2001年の特撮作品として見るより飯島監督が関わった初期のウルトラシリーズや1972年に公開された『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』に続く作品として見た方が理解しやすいかなと思う。

 

本作は人類とウルトラマンのファーストコンタクトとなった『初代マン』の「ウルトラ作戦第一号」と人類とバルタン星人のファーストコンタクトとなった「侵略者を撃て」のリメイクとなっている。
『初代マン』と本作でのウルトラマンやバルタン星人や人類の描かれ方の違いに時代の違いを感じる。

 

『コスモス』の世界で「ウルトラマン」と言う存在は殆どの人が名前を知っているが実際に会った者はおらず本当にいると思っている人も少ないと言う現実世界でのサンタクロースみたいな感じになっている。
そんな中、ウルトラマンの存在を信じて会いたいと願っていたムサシは実際にコスモスと出会い、最初はムサシの言葉を信じていなかった子供達も段々と信じていくようになり、最後はムサシの決意と頑張りによって遂に多くの人々の前にコスモスが姿を現すようになる。
最初は透明でムサシ以外には見る事も出来なかったウルトラマンが段々と実体化していったように本作はウルトラマンと言う存在の復活が描かれた。
因みに『テレビマガジン特別編集 ウルトラマンコスモス』によると、本作の劇中に『ウルトラマンはほんとうにいるのですか?』と言う本があって表紙には初代マンが描かれているらしい。

 

成田亨さんは初代マンを宇宙時代の秩序(コスモス)を目指してデザインしたと言う話があるが、その秩序を名前に持つコスモスのルナモードは初代マンを思わせるシンプルなデザインとなった。
ルナモードはティガ・スカイタイプやダイナ・ミラクルタイプやアグルの流れを汲んだ青を基調としたカラーリング。成田さんは初代マンのカラーリングを青にしたかったが撮影の関係で断念したらしいので、30年以上の時を経て青いウルトラマンが実現できるようになったのは感慨深いものがある。
コロナモードはナイスに続いて左右対称を崩した挑戦的なデザインとなった。ウルトラマンも数が増えてきたので左右非対称のデザインは特徴を出すのに良い選択だと思う。

 

THE BLUE PLANET』に登場した透明のコロナモードは「スケルトンコロナモード」と呼ばれているが本作で登場した透明のルナモードは「スケルトンルナモード」とでも呼ぶべきだろうか?

 

科学調査サークルSRCはScientific Research Circleの略称で、怪獣や宇宙人と人類の問題を平和に解決する為に生まれたボランティア団体で、科学分野の革命的な発明特許を数多く取得して20世紀末から世界的に台頭し始めた水無月工業技術研究所(MITI)を母体に木本博士が中心となって設立したと言う設定。
『初代マン』の科特隊は防衛軍とは別の組織だったが本作に登場するSRCも防衛軍とは異なるボランティア団体となった。隊員達は普段は別の職業を持っていると言う設定はムサシの学校の先生が実はSRCの隊員だったとしてムサシとSRCの出会いを自然にする事が出来た。特別チームとは別の仕事があると言う設定は話の幅を広げる事が出来そうなのだが『80』の時のように色々と大変なのか他の作品ではあまり見られなかった。少し違うが『メビウス』のCREW GUYSや『SEVEN X』のエージェントが近いかな?
特別チームに関してはまだまだ色々なパターンが試せると思うのでこれまでとは違った設定の組織も出してみてほしいなと思う。

 

本作に登場する「SRCオリジナルセブン」は防衛軍所属だったがその姿勢に疑問を感じてSRCに移ったアカツキキャップ、本職は自動車の設計でメカに強いマニアックなキド隊員、本職はケーキ職人で「カオル」と言う名前は似合わないからと昔の相撲取りの名前を付けられたライデン隊員、天文学が専門のサカグチ隊員、巨大グローブを操縦するイチノセ隊員、こども科学館にあるおもちゃ病院の院長も勤めている木本研作博士、そしてムサシが通っている学校の音楽の先生でもある渡辺響子(キョウコ)隊員となっている。
残念ながらサカグチ隊員とイチノセ隊員はあまり印象に残らなかった。映画は時間が限られているので二人にもっと活躍の場を与えるか逆に人数を減らすかした方が良かったかなと思う。なんか無理矢理に「7」と言う数字に合わせた感じがした。
逆に妙に目立っていたのがキド隊員。風見しんごさんの細かい拘りが随所に見られて楽しいキャラクターであった。

 

木本博士曰く「SRCのオモチャ」であるトロイシリーズは巨大なグローブやスピーカーを内蔵していて本当にオモチャのようになっている。このノリは『T』のZATを思い出すが実は『初代マン』の科特隊もこのノリに近い。(「SRC作戦ACT1」の元ネタも科特隊の「ウルトラ作戦第一号」であろう)
因みに劇中に登場したトロイAはコアモジュールのデータ収集用母機、トロイBはコアモジュールの実験機で、両機によるデータとノウハウがTVシリーズに登場するコアテックシステムへと受け継がれたとの事。又、本作に登場したラウンダーグリップはヒウラキャップとサワグチ女史が共同開発したと言う設定になっている。

 

防衛軍国家緊急部隊シャークスは今回のみの登場だが防衛軍は後のTVシリーズや劇場版にも登場してSRCと対立を続けている。
ウルトラシリーズで主人公が所属する特別チームとは別の組織がレギュラーで登場するのは意外と少ない。本作以前だと『初代マン』の防衛軍や『G』のアーミーぐらいかな。

 

元防衛軍で今はSRCであるアカツキキャップとシャークスのシゲムラ参謀がホットラインで連絡を取り合っていると言う設定が面白かったので、TVシリーズでもヒウラキャップと佐原司令官や西条武官達の間に作ってほしかった。

 

シゲムラ参謀は最初に見た時は言動全てが極端で無茶に思えたが少し距離を置いて冷静に見ると実はそんなに間違った事は言っていない事が分かる。
ムサシから見たらコスモスもバルタン星人も信用できる存在だがシゲムラ参謀から見たらどちらも信用できない相手なのは確かだし、地球防衛を考えると相手を信用して隙を狙われるのは絶対に避けねばならない。
ただ、地球を守らなければいけないと言う考えに囚われすぎて視野が狭くなって結果的に地球を危機にさらしてしまったのは事実なので、シゲムラ参謀の考えも分かるが、新たな考え方が求められる時代になったのかなと思う。

 

ムサシ達4人の中で話の中心になるのはムサシとマリの二人で残りのショージとツトムはツトムが雷が怖くてマリに少し気がある?と言う描写があるくらいであまり印象に残らなかった。森林公園のロケット砦にMMST(ムサシ・マリ・ショージ・ツトム)の旗を掲げるのならショージとツトムにももっとスポットを当ててほしかった。

 

本作に登場する勇次郎はムサシの義理の父親となっている。
ムサシの実の父親である五十畑浩康は宇宙開発に関わる技術者だったがムサシが4歳の時(劇中では6歳の時となっているが)にロケット事故で死亡している。
ムサシの実の父親はムサシが宇宙飛行士を目指すきっかけとなった重要な人物だが劇中ではあまり取り上げられなかった。因みにプロデューサーである渋谷浩康さんが担当している。

 

本作はムサシと勇次郎の関係が一つの柱となっている。
表面的には仲の良い親子だが大事件の発生で実はお互いに相手を信じきれていなかった事が明らかになる。それがコスモス登場後の和解へと繋がっていくのだが、勇次郎の描写が前半に比べて後半はかなり少ないのが残念。ムサシを信じきれなかった自分を省みる場面は絶対に必要だったと思う。
又、ムサシと勇次郎を繋ぐ存在であるはずの母親のみち子の出番も意外と少なくて後半は殆ど出ていない。前半はムサシを中心に上手くまとまっていたのだが後半は色々な視点が加わってしまった事でムサシと勇次郎の話が弱くなってしまったところがある。

 

宇宙開発に関わっていた父親の影響か、ムサシは宇宙人であるウルトラマンに並々ならぬ関心を抱いていた。ひょっとしたらコスモスはムサシにとって父親代わりの部分もあるのかもしれない。

 

劇中でコスモスやバルタン星人は「E.T.」と呼ばれている。
実際に『E.T.』を思い出す場面もいくつかあるので本作は『E.T.』のウルトラマン版を狙ったのかなと思われる。

 

TVシリーズでは何度かムサシと会話をしているコスモスだが本作では一度も言葉を発しておらず、会話は全てテレパシーで行われている。
ところで劇中でコスモスとバルタン星人の会話は1420MHzで解読できたが、もしかしたらコスモスとムサシのテレパシーもこれで知る事が出来るのかな?
本作の元となった『初代マン』の「侵略者を撃て」でも宇宙語が登場しているが今回は数学や音楽は全宇宙共通であるとして数学の原理を応用して宇宙語を作ってコスモスとバルタン星人の会話を解読したりバルタン星人に向けて巨大スピーカーで『シューベルトの子守唄』をかけたりしている。こういう細かい説明があると説得力が増して良い。

 

遺跡公園に出現した呑龍に対してSRCはマンガチックな道具を使って元の場所に戻そうとして、シャークスは現実味ある武器を使って呑龍を倒そうとしてと両者の違いがよく分かる。
因みに怪獣保護の始まりとなったタブリス事件は本作の4年前の出来事だが怪獣出現がまだ少ないからか本作では怪獣保護に関する話はあまり出ていない。

 

バルタン星人が地球に来た理由の一つに地球から宇宙へのメッセージである「SETI計画」があった。SETI計画は現実ではまだ成果は得られていないが劇中でバルタン星人来訪と言う成果を描く事で作品に「未来感」を感じられるようになった。

 

バルタン星人の来訪を受けて渡辺先生は肌の色の違いや宗教・風俗・習慣の違い等を乗り越えて地球上に住む人間皆が家族のように暮らそうと言う「ファミリー・オブ・マン」と言う考え方を例に挙げて全宇宙を家族とする「ファミリー・オブ・スペース」は可能かどうかと子供達に問い掛ける。
この考え方はやがて『コスモス』そのもののテーマとなり、以降のウルトラシリーズでも何度か問われる事となった。

 

呑龍が出現した時は「嘘吐き呼ばわりされたくない」と言うムサシの保身の心が壁となってコスモスは現れなかった。その後、ムサシはコスモスやバルタン星人の考えを理解しようとして、その心に応えて輝石が輝いてコスモスは姿を現す事になる。
因みにシルビィによると呑龍が出現した時はコスモスはまだダメージが回復していなかったので現れなかったとの事。ダメージが回復していなかったとは言え、地球人が呑龍やバルタン星人と戦っている間、コスモスが全く現れなかったのはちょっと意外。「慈愛」「優しい」と言われるコスモスだが、よく見ると意外とドライな部分がある。

 

ムサシが輝石を撃ち出して花が咲くようにコスモスが出現する場面はまさに「ウルトラマンの誕生」と言った感じであった。

 

コスモスとバルタン星人の戦いはコスモスの強さがかなり印象に残った。
ルナモードは防御や回避が中心なのだが次々と繰り出されるバルタン星人の攻撃を打ち破っていく事で攻撃に頼らなくても強さを演出できる事を示した。

 

コスモスのコロナモードに対抗する(変身はバルタン星人の方が先だったが)ネオバルタンのデザインには驚かされた。特徴であるハサミを外してもバルタン星人に見えてしまうのが不思議。

 

CGを使った戦闘シーンは賛否両論あるが自分は賛成派。
バルタン星人に投げられたコスモスが地上に激突する寸前に体勢を立て直して着地する場面は空を飛べるウルトラマンならではの動きで良かったと思う。この場面を見た時、21世紀に入ってウルトラシリーズはまた新たなステージに進んだ事を感じた。

 

自身の敗北を理解したバルタン星人は自爆。それを見た木本博士は「バルタン星人は……せめて子供達だけでも、この星で幸せにしたかっただろうに……」と呟く。
バルタン星人の自爆は今回の件の責任を自分一人で請け負ったものと考えられる。
その後、たくさんのチャイルドバルタンがバルタン星人の亡骸を運ぶがコスモスと戦ったバルタン星人以外の大人がいなかった。ひょっとしたら大人のバルタン星人はコスモスや地球人と争った彼(彼女?)一人だけだったのかもしれない。それならやや強硬に新たな安住の地として地球に移住しようとしたのも理解できるし、ネオバルタンの全身武器だらけの禍々しい姿もたった一人で子供達を守る為に自分の体を異形へと改造していった姿だったと解釈する事が出来る。
こう考えていくとバルタン星人側にもそれなりの事情があって、本作で起きた争いは単純な善悪の対立ではなかった事が分かってくる。そんな事情を察したのか、コスモスはコスモ・カウサーでネオバルタンを元のバルタン星人の姿に戻すのであった。(出来ればコロナモードではなくルナモードでやってほしかったが……)

 

自分達の星へ還る事を決めたバルタン星人。
「私達自身が汚してしまった私達の星の運命と共に過ごします……。さようなら……。そして最後に地球の子供達へ……。決して夢を失わないでください……。大人達が夢を捨てて現実だけを追いかけた結果が私達の星の破滅だったからです」。
そう言い残してノアの箱舟に戻ったチャイルドバルタン達は大人のバルタン星人の亡骸と共に自分達の星へと帰っていった。
『初代マン』の「侵略者を撃て」でもバルタン星人の母星が核実験で爆発して、一方の地球人も街中で核ミサイルを使用したりと両者が似た者同士である事が示されていたが本作はそれをより分かりやすく描いたところがある。

 

バルタン星人が地球を去り、コスモスもムサシに別れを告げる。
ムサシ「ありがとう! ウルトラマンコスモス……。夢? 夢! 捨てないよ、絶対! 大人になったって」。
ムサシを指差すコスモス。
ムサシ「真の勇者? 地球を守る……真の勇者? ……うん、やってみるよ」。
そしてコスモスは宇宙へ飛び立つ。嵐が過ぎた朝に出会った二人は晴れ晴れとした太陽の下で別れるのであった。
コスモスを見送る子供達。そしてムサシに向かって渡辺先生=キョウコ隊員がそっと呟く。「秘密だよ……。ウルトラの星への……扉」。

 

本作の重要アイテムである輝石は「輝く石」と「奇跡」をかけたネーミングが秀逸であった。

 

本作は「少年の成長」「異種族との交流」「様々な意見を持つ人々」を物語のテーマに据えて、アナログ撮影とCGを使って特撮作品ならではの映像を作り出した。
シリーズが進むごとにウルトラマンや特別チームと言った特定の一部の人間を中心に物語が展開されるようになっていたのを子供を中心とした一般人も物語に絡む展開にしたのも良かった。
一方で後半になると説明不足や描写不足がチラホラ見られたのも確かで、出来ればエンディングを後日談にして物語の補完をしてほしかったなと思った。