帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「強さと力」

「強さと力 ーエリガル カオスエリガル登場ー
ウルトラマンコスモス』第28話
2002年1月12日放送(第28話)
脚本 大西信介
監督 市野龍一
特技監督 高野敏幸

 

毒ガス怪獣エリガル
身長 54m
体重 5万8千t
凶暴性の無い怪獣だが自己防衛本能から有毒ガスを噴出する。過去にEYESに倒された個体がいる。
自力でカオスヘッダーを押さえ込んでいたがEYESの麻酔弾で力が弱まると完全に乗っ取られてしまう。カオスヘッダーの影響でガスの成分が強力になり両肩の噴出口だけでなく口からも吐けるようになる。
ルナエキストラクトでもカオスヘッダーを切り離せなかったが最大の力で放ったコロナエキストラクトで切り離される。激しい戦いに肉体が耐え切れなくてカオスエリガルが倒されたと同時に息を引き取った。

 

カオスエリガル
身長 56m
体重 6万t
コロナエキストラクトで切り離されたカオスヘッダーが作り出したエリガルのコピー体がさらに変異したもの。
胸に現れた球体から光線を放つ。両手の鎌で切りつける。
コロナモードのブレージングウェーブで爆破された。
『ガイア』の「ガイアよ再び」のガグゾムの着ぐるみを改造している。

 

物語
進化を始めたカオスヘッダー。理解が進まない怪獣保護。焦るムサシは更なる力を求めるが……。

 

感想
『コスモス』の節目となるエクリプス四部作が開始。

 

今回は「カオスを倒す力」を受けての話になっているが間に「地球生まれの宇宙怪獣」を挟んでいるので、前回はほのぼののんびりムードだったのに今回はいきなりムサシが焦っていて違和感を覚える。2001年の締めに物語前半の纏めとなる実体カオスヘッダーの話を、2002年の初めに目出度い話をしたかったのは分かるが、『コスモス』と言う作品にとって大事なところだったので話の流れをもっと考えてほしかった。

 

空手の組み手でフブキ隊員に勝利したムサシ。これで連敗記録が38で止まったのだが、勝ったムサシも負けたフブキ隊員もなんだか微妙な雰囲気に……。ヒウラキャップが尋ねるとフブキ隊員は手の傷を見せてムサシが遠慮無く向かって来た事を明かす。
「今までのムサシならこっちが傷付いたりするのを恐がってこんな強引な真似してこなかったんです。それがあいつの弱さでもあったんですけれど……」。
話を聞いたヒウラキャップはそれがムサシにとって進歩と言えるかどうか問いかける。
今まで力を出し切れなかった主人公が遂に実力を発揮すると言う展開はバトル作品では盛り上がりどころになるのだが、そこに疑問符を付けるのが『コスモス』らしい。

 

EYESの取材に来たマスコミはEYESは怪獣を保護すると言っていながら結局は攻撃してしまうパターンが多い事を指摘する。
ヒウラキャップの「人々に危害を及ぼす可能性が僅かでもあるのなら怪獣を倒せと命令する事も当然ある」と言う答えに女性ディレクターは凶暴性の無い怪獣だったエリガルを倒した事例を挙げ、民家の近くで有毒ガスを吐くのでやむを得なかったとするヒウラキャップを「怪獣の生き死にの権利を握っている事を真剣に考えているのか疑問だ」と断じる。
女性ディレクターはEYESに対して当たりが強すぎるところはあったが、主人公達の行動に疑問符を投げかける存在は作品のテーマを深めるのに有効なので今回限りではなく準レギュラーで出てほしかった。

 

「怪獣保護を謳っていながらEYESは安易に攻撃に移りすぎている」と言う女性ディレクターの指摘だが、ムサシも入隊当初はEYESに似た印象を抱いていたし、シノブリーダーやフブキ隊員は現実の前に怪獣保護を諦めかけていた時期があったので、劇中で描かれていないだけでEYESは視聴者が考えている以上に実は怪獣を倒しているのかもしれない。

 

取材が終わった後、ヒウラキャップは世論は極端なものだとして、今日みたいな意見があれば怪獣を保護する事自体とんでもないと言う意見もあると語り、フブキ隊員は怪獣を保護するか被害を防ぐかの選択を迫られた時に攻撃はやむを得ないとするが、それらを聞いていたムサシは強く訴える。
「でもそれじゃEYESが何の為にあるか分からない! すぐ攻撃してしまうのはある意味、僕達が弱いからですよ! そう、弱いから、力が足りないから、すぐに怖気付いて攻撃に走ってしまうんだ。もっと強くならなくちゃ……、力を付けなきゃ駄目なんですよ!」。
フブキ隊員の「二択を迫られた時に怪獣ではなく人間を守る」と言う答えは間違っていない。それに対してムサシは「怪獣より強い力を身に付ければ、怪獣の脅威から常に人間を守る事が出来たら、怪獣と人間のどちらかを守ると言う二択は生じなくなり、怪獣も常に助ける事が出来るようになる」と考える。
もし人間が怪獣に手も足も出ない状態だったら怪獣は単なる脅威の存在として保護しようと言う話自体が出なかったと思われる。つまり、『コスモス』の地球で怪獣保護が行われるようになったのは人間が怪獣を倒す事が出来るほどの力を持っているから倒す以外の選択も考えられるようになってきたと考えられる。今はまだ倒せない怪獣や倒す事は出来るが保護となると難しい怪獣がいるが、ムサシが言うように全ての怪獣を簡単に保護できるだけの力をEYESが持つ事が出来たら全ての怪獣を倒す必要は無くなるのかもしれない。

 

ムサシはフブキ隊員に続いて今度はヒウラキャップと組み手をするが、あっさりと負けてしまう。
秘めていた実力を発揮して勝利するのは先程のムサシも今回のヒウラキャップも同じなのだが、自分の力を加減できなくてフブキ隊員に怪我を負わせてしまったムサシに対してヒウラキャップはムサシに怪我を負わせる事無く勝利を収めている。
ヒウラキャップは以前のムサシには戦いながらも相手を気遣う優しさがあったとして、力を付ける事は否定はしないが力に頼って強引になり思いやりや優しさを見失う事は恐いと忠告するが、焦るムサシは安心を得る為に力を求める事をやめられなかった。
ヒウラキャップが求めている強さは力の強さではなく意志の強さ。焦りから安易に力を求めてしまうのは意志が弱くなってしまっていると言える。

 

今回のムサシの焦りはコスモスを上回る実体カオスヘッダーの出現が引き金となっている。
バトル作品では相手が強くなるとそれに対抗して主人公も強くなっていくのだが『コスモス』では単に強くなるだけの展開に疑問を呈した。この視点は終盤の大きなテーマとなっていく。

 

かつてEYESによって倒されたエリガルの別個体が出現。ヒウラキャップは有毒ガスを警戒するがムサシはドイガキ隊員を同乗させていながらテックサンダー3号で無茶な作戦を敢行。有毒ガスをかいくぐって粘着弾で噴出口を塞ぐ事に成功するが、続けて撃った麻酔弾の影響でエリガル自身の力が弱まると今までエリガルに抑えられていたカオスヘッダーが解き放たれると言う逆効果を引き起こしてしまう。焦りを募らせたムサシはヒウラキャップの警告を無視して今度は口を粘着弾で塞ごうとするが失敗し、ドイガキ隊員は気絶し、乗っていたテックサンダー3号も撃墜されてしまう。
「怪獣を守るのがEYESの義務だ! だがな、俺にはお前達を守る責任がある! それでEYESが弱腰だと批難する奴がいるんなら言わせておけ! 俺が欲しいのは強引な強さじゃない!」。
そう訴えるヒウラキャップと怪獣を救おうとして逆に仲間も危機に遭わせてしまったムサシ。どちらが真に強かったかは言うまでも無い。

 

コスモスに変身したムサシはルナエキストラクトを放つが進化したカオスヘッダーをエリガルから切り離す事が出来なかった。
第1話の「光との再会」でルナエキストラクトがカオスリドリアスからカオスヘッダーを切り離した時は「なんて都合の良い技なんだ……」と正直言って呆れたのだが、それを物語の中盤でカオスヘッダーの進化を示すのに使ったのはなるほどであった。
カオスヘッダーの力が増している事を実感したムサシは怪獣を守るのにも力が必要だとコロナモードにモードチェンジしてエリガルを弱らせてからコロナエキストラクトを最大の力で放ってカオスヘッダーを切り離す。
この一連の場面ではムサシの言葉が流れたりコスモスの動きがムサシの動きにシンクロしていたりとムサシの人格がかなり前面に出ている。それだけムサシの意思が強かったと言う事なのだが……。

 

コロナエキストラクトによって切り離されたカオスヘッダーはエリガルのコピー体を作り、さらにカオスエリガルへと変異するが、コロナモードはそれをものともせず終始圧倒する。本気を出したコスモスはこんなに強いのかとかなり驚く。
今回の戦闘は挿入歌の『Touch the Fire』の効果もあって盛り上がる盛り上がる!
だが、ここで盛り上がれば盛り上がるほど、この後の衝撃が引き立つ事となる。

 

カオスエリガルが倒された事にEYESは喜ぶが皆が戦いに気を取られている中でエリガルは静かに倒れる。駆け寄って抱き上げるコスモスだったがエリガルはそのまま目を閉じて永遠の眠りに就くのであった。
夕焼けの中、エリガルを抱きかかえたまま呆然とするコスモスの姿は過ちを犯してしまったウルトラマンの姿としてシリーズ屈指のインパクトを誇る。特に『コスモス』はこれまで(結構都合良く)物事が上手い方向に進んでいただけにその衝撃は凄まじかった。

 

「何故だ!? 何故なんだ、コスモス! 僕が力を、力を求めすぎたのがいけなかったのか? 力は……優しさを消してしまうのか? 返事をしてくれ、コスモス……。コスモスー!」。
沈む太陽に向かって涙ながらに絶叫するムサシだったが、その問いに答えるものは誰もいなかった。
と言う事で次回「夢みる勇気」に続きます。