帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「夜襲 -ナイトレイド-」

Episode01 夜襲 -ナイトレイド-」
ウルトラマンネクサス』第1話
2004年10月2日放送(第1話)
脚本 長谷川圭一
監督 小中和哉
特技監督 菊地雄一

 

ブロブタイプビーストペドレオン
体長 5m~10m
体重 各個体で差異あり
ナメクジと同じく体組織の95%が水分で形成されている。
エタノールを好物としていてガソリンスタンドや飲酒した人間を襲っていた。
触手で獲物を捕らえて巨大な口で食べる。
最初にクラインと呼ばれる幼体が現れたがナイトレイダーに倒され、後にフリーゲンと呼ばれる飛翔体が新たに現れたがこちらもネクサスによって倒された。
ナメクジとウミウシの要素が入っている他、『Q』の「ゴーガの像」のゴーガをオマージュした部分がある。
肩書きの「ブロブ」は「塊」と言う意味でスライム等に使われる事がある言葉。

 

物語
レスキュー隊員だった孤門一輝は謎の男・松永からTLTへの異動を命じられる。
それは闇に紛れて人を捕食する化け物スペースビースト、それらを殲滅する為に日夜戦い続ける組織ナイトレイダー、そして謎の巨人ネクサスとの出会いとなった。

 

感想
「ULTRA N PROJECT」の第三の使者ネクサスが登場。
前作の『コスモス』から数年が経ったので視聴していた子供達の成長に合わせて複雑な内容となった。
アニメが子供番組のフォーマットでもシビアなテーマをオブラートに包み込みながら少しずつ視聴者層を広げていった流れを意識したらしい。
結果的に試みは失敗に終わってしまったのだが、かつて平成三部作や『コスモス』が放送されていた土曜夕方6時の放送枠で『ガンダムSEEDD』や『鋼の錬金術師』と言った高い年齢層を意識した作品がヒットしていたので、土曜朝7時半への放送時間変更が無ければひょっとしたら……と言う考えは捨てきれない。今更言ってもではあるが……。

 

因みにこの放送時間変更はかなりギリギリの段階で決まったらしい。
スタッフ的には朝7時半でなく深夜31時半ぐらいの気持ちで製作に当たったようだが視聴者からしたら朝7時半は深夜31時半ではないわけで、視聴者への放送時間変更の周知不足や朝7時半の放送時間には合わなかった作風等が不振の原因となってしまった事は否めない。

 

『ネクサス』は企画当初から予算やスケジュールの関係でそれまでと同じウルトラ作品を作っても単なる縮小再生産になる恐れがあった為、特別チームを隠密組織にしてウルトラマンの戦いを人知れずにする事で街中の戦闘や大勢のエキストラを外し、それらを裏付ける設定を作ってドラマ部分を強化する事となったらしい。予算やスケジュールは『Q』『初代マン』から続く問題で各作品で様々な対策が考えられてきた。

 

『ネクサス』は『ULTRAMAN』の後日談であるが元々は映画とは無関係な企画として進められていた。それが途中で映画とTVをリンクさせる事になり、さらに映画公開からTV放送までの間を繋ぐ存在として雑誌やショー限定のキャラクターであるノアが企画された。
ノア、ザ・ネクスト、ネクサスの三者エナジーコアを共有している一方でザ・ネクストとネクサスでアンファンスとジュネッスの意味が微妙に異なるのはこの辺りが理由だと思われる。
一方で『YELLOW EYES』から『ULTRAMAN』へと変更された過程で外されていった「人間の中に潜む暴力性」が『ネクサス』で再び推し進められる事となった。

 

オープニング曲はdoaの『英雄』で、これまでと違って「ウルトラマン○○」と言うヒーローの名前が歌われていない。(『ティガ』の『TAKE ME HIGHER』は「ウルトラマン」と言う言葉は無かったが「ティガ」と言う言葉は入れられていた) これは平成ライダーシリーズで「仮面ライダー○○」と言う言葉が入らない主題歌が登場した事を受けた時代の変化と思われる。

 

最終回の印象からか『ネクサス』の物語の始まりと終わりは孤門のナレーションだったイメージがあるが実は姫矢が謎の遺跡を見つめる場面から物語が始まっている。

 

本作のナレーションは主人公でもある孤門が担当している。
多くのナレーションは世界を俯瞰できるところから物語を視聴者に向けて説明するのだが、劇中の人物である孤門には世界を俯瞰できるような立場は与えられなかったので、『ネクサス』のナレーションは孤門の心情の解説がメインとなり、孤門が知らない部分についてはナレーションされる事は殆ど無く、結果として多くの作品でナレーションが担当していたウルトラマンや特別チームや怪獣についての説明は行われなかった。
ただ『ネクサス』は孤門の成長物語と言う側面があるので最初にナレーションで全てを説明するのではなく孤門の成長と共にウルトラマンや特別チームや怪獣について少しずつ明らかになっていくと言う展開は合っていたと思う。

 

ペドレオンは着ぐるみの他にCGによる表現も試みられていて、CGならではの変幻自在さで体組織の95%が水分と言う設定を表現していた。着ぐるみでは表現しにくいヌメヌメした不定形ならではの気持ち悪さは『ネクサス』が目指す怪獣像を示していたと思う。
前作『コスモス』では怪獣も理解できる共存の可能性がある存在として親しみが持てる部分が強調されていたが、『ネクサス』ではその流れを断ち切る為に感情移入しにくい文字通りの化け物となった。
因みにスペースビーストに当てられた「異生獣」と言う言葉は「人間とは共生できない異なる生き物」と言う意味らしい。

 

レスキュー中に川で溺れた子供時代を思い出してパニックに陥った孤門。
この川で溺れたところを誰かに救われた記憶が孤門のウルトラマンに対するイメージとなる。
因みに孤門が精神的成長を遂げた中盤以降はこのトラウマについて触れられなくなるのだが、意外にも川で溺れたトラウマを克服する話は明確には設けられなかった。

 

孤門の恋人リコ。『ネクサス』の序盤はナイトレイダーがギスギスしていたので孤門の全てを受け入れてくれるリコの存在はかなりの癒しとなった。
ウルトラシリーズで特別チームの関係者以外で恋人が登場したのは久し振り。特別チーム内の恋愛だと職場が同じなのでエピソードが作り易くなる一方で話の舞台が限られる恐れがある。(まぁ、リコは特殊な事情で動物園絡みでしか登場せず、話の舞台を広げる事は無かったが……)

 

身体検査を装って孤門を拉致してナイトレイダー隊員の適性検査が行われる。正直言うと、かなり不満が残る場面であった。
孤門は連れ去られた後に検査中に一度目を覚まして再び気絶させられるのだが、中途半端に検査場面を見せた為に孤門に不安と不信を与えてしまった。
検査終了後は特に記憶処理をされる事も無く普通に帰されたが、孤門が検査の事を周りに話したらどうするつもりだったのだろうか。警察やマスコミに訴えても組織的に揉み消せるだろうし、家族や友人に話してもメモレイサーで記憶処理すれば済む話だが、そんな面倒な後始末をするくらいなら、もっと簡単で適切な方法があったと思う。
たとえ周りに言わなかったとしても無理矢理検査された事で孤門にTLTへの不信感が芽生えたのは確かなので、この場面はTLTの怪しさはよく分かったが冷静に考えるとかなり不自然な場面であった。

 

無人のバスに孤門が足を踏み入れてペドレオンに襲われる場面は正統派なモンスター映画の流れ。
怪獣モノとは違う恐怖ではあったのだが、かなりドキドキする場面であった。

 

ペドレオンは二度目の登場時に飛翔体になっていたが、後の話での説明を聞くとクロムチェスターを模倣して進化したと考えられる。

 

ペドレオンに襲われた孤門は溺れた時の記憶が蘇るが今度は誰かが手を差し伸ばして救ってくれた記憶が続いてそれと共に上空から降りた光が巨大な拳となってペドレオンを粉砕する。
ウルトラシリーズでは珍しく第1話でウルトラマンと怪獣の本格的な戦闘が無かったのだが、ここまで5m前後の化け物に襲われる人々を丁寧に描いていたので、それを一気に粉砕する40mの巨人の姿は頼もしく神々しかった。「ウルトラマンは巨人」と言う当たり前だが意外と描かれていない基本を見事に描いた第1話だと思う。

 

孤門にとってライバルであり同志となる西条副隊長。妙にイライラしていて攻撃的なのは溝呂木がいなくなってイッパイイッパイだったのだと思われるが最初に見た時はそんな事情は分からないので人格に難がある人物と言う印象になってかなり賛否が分かれるキャラクターとなった。

 

『ネクサス』の第1話は一般人である孤門が超常現象を初めて体験して今まで当然だと思っていた日常が崩れ去ってしまう話であった。
実はウルトラマンシリーズのTV第1話で主人公が超常現象を初めて体験する展開は『ネクサス』が初になると思われる。
過去の作品を振り返るとハヤタ、ヒカリ、ダイゴ、アスカ、ムサシは第1話の時点で特別チームやその関係に所属しているので超常現象は体験済み。ダン、ゲン、矢的は正体がウルトラマンなのでこちらも体験済み。郷、北斗、光太郎は第1話の時点では一般人だが既にウルトラマンや怪獣が登場している世界の住人。我夢はアルケミー・スターズ所属なので完全な一般人とは言い難いとなっている。
視聴者と同じく超常現象を初めて体験する孤門は視聴者と同じ目線で物語を辿る事が可能となった。そしてそれはウルトラマンに変身するのではなく視聴者と共にウルトラマンの活躍を目撃すると言うウルトラシリーズの主人公で唯一の役回りを担う事になる。

 

本作は様々な作品で助監督を務めていた菊地雄一さんのウルトラシリーズ監督デビュー作となっている。