『ULTRAMAN』
2004年12月16日公開
脚本 長谷川圭一
監督 小中和哉
特技監督 菊地雄一
ウルトラマン・ザ・ネクスト
アンファンス時 身長 10m 体重 2.5t
ジュネッス時 身長 40m 体重 2万6千t
赤い発光体と同化した真木舜一がザ・ワンの攻撃を受けて覚醒した姿。
最初の変身時は幼体状態であるアンファンス留まりで両肘のエルボーカッターでザ・ワンの尻尾を切断するも能力が不完全な為に痛み分けに終わった。
その後の再戦時ではある母娘を救う為に完全体であるジュネッスにまで進化した。空を自由自在に飛び回ってラムダ・スラッシャーでザ・ワンの羽を切り落とすと最後はエボルレイ・シュトロームで分子レベルで分解して勝利を収めた。
全てが終わった後、真木と継夢の約束を叶える為に大空へと帰っていった。
アンファンスは銀色主体の姿でジュネッスになると血流を思わせる赤いラインが加わる。
ビースト・ザ・ワン
イドロビア時 身長 3m 体重 920kg
レプティリア時 身長 10m 体重 4万4千t
ベルゼブア時 身長 50m 体重 9万9千t
ベルゼブア・コローネ時 身長 50m 体重 12万t
青い発光体に同化された有働貴文が遺伝子レベルで変質させられた姿。
ヤモリ、トカゲ、ネズミ、カラスを吸収して進化していく。
超音波を発し、口から超絶火炎光弾を放って街を火の海に変える。
殺戮を楽しんでいて人々を焼き尽くそうと暴れる。自分の邪魔をするザ・ネクストを倒そうとするが最後はザ・ネクストのエボルレイ・シュトロームで分子レベルで分解された。
何故かザ・ネクストと比べて体重が異様に重い。
物語
病気の息子の為に自衛隊を退官する決心をした真木舜一は赤い発光体と遭遇する。
数日後、戦闘機から離れて平和な日々を送っていた真木の前に対バイオテロ組織BCSTが現れて青い発光体によって変質した有働貴文の事を話す。
そして青い発光体によってビースト・ザ・ワンとなった有働を前にして真木の体にも変化が現れる。
感想
「ULTRA N PROJECT」の第二の使者であるザ・ネクストの活躍編。
ウルトラシリーズの映画を『バットマン』や『スパイダーマン』のような大人も楽しめる作品に変える事を目指して製作され、音楽監修にB'zの松本孝弘さんが、フライングシーケンスディレクターにアニメーターの板野一郎さんが参加して、防衛庁が全面協力する等、それまでのウルトラシリーズとは異なる雰囲気を持つ作品となった。
元々は2000年に『YELLOW EYES』と言うウルトラマンや人間の暴力的な部分を描いた企画があったが9・11事件の影響で中断となり、その後、『コスモス』の企画終了を受けて、これまでのファミリー映画とは一線を画した作品を目指して製作が再開された。
本作は『YELLOW EYES』にあったリアルさや対象年齢の拡大と言った要素を使って『初代マン』の「ウルトラ作戦第一号」を現在の現実に当てはめたらと言う想定の下に作られた。
防衛庁全面協力と言う事で戦闘機の場面は本物ならではの迫力が味わえる。
従来のウルトラシリーズでは架空の特別チームが設定されるが本作は「自衛隊」「米軍」と言った実在の組織が登場しているので詳しい説明が不要で且つリアルな雰囲気を生み出す事が出来た。
他の作品では「○○地区」と言う漠然とした場所が舞台になる事が多いが本作は実在の地名を使っているので舞台をイメージしやすくなっている。他のウルトラ作品で決戦の舞台となった場所の名前を挙げる事はちょっと難しいが本作の「新宿」は覚えやすかった。
ところでザ・ネクストとの最初の戦いで傷付いたザ・ワンは新宿の地下に潜んで力を蓄えていたが、どうしてこの場所を選んだのだろうか? 後に『ネクサス』でも終焉の地への扉が出現し、復活したザギが降臨する等、新宿は何かと重要な場所となっているが……。
ザ・ワンとザ・ネクストの関係は『初代マン』のベムラーと初代マンがモデル。
最初にビーストが現れて「ザ・ワン」と名付けられ、続いてウルトラマンが現れて「ザ・ネクスト」と名付けられる過程は『初代マン』の「ウルトラ作戦第一号」でベムラーの後を追って初代マンが地球に現れた事だけでなく、『ゴジラ』や『Q』で怪獣が現れた後に『初代マン』でヒーローが誕生したと言う歴史も踏まえていそう。
真木は子供の頃に「銀色の流星」である戦闘機を見上げていたが、大人になって「銀色の流星」と呼ばれるウルトラマンと同化する事となった。
初代マンの姿はハヤタ隊員が操縦していた小型ビートルがモデルになっていると言う解釈があるが本作はその説を物語に組み込んだと言える。
一方で初代マンとハヤタ隊員の関係が意外と切れていたのに対してザ・ネクストと同化した真木は感覚が鋭くなって身体能力が向上して変身アイテムを使わずに変身するとジャックと郷秀樹の関係に似ている。
漠然とした未来を舞台にした『初代マン』に対して『帰マン』は放送当時を舞台にして自衛隊や第二次世界大戦と言った現実の組織や出来事も物語に組み込んでいた。ファンタジー色のある『初代マン』に現実的な要素を付け加えると言う点で『帰マン』と本作は同じところがある。
青い発光体を追撃して赤い発光体が地球に飛来した経緯はベムラーを追った初代マンの他、バルタン星人を追って地球にやって来たパワードにも近い。
又、『パワード』の「宇宙からの帰還」に登場したジャミラはザ・ワンと有働の関係に酷似していた。
ザ・ワンのデザインも洋画に登場するクリーチャーを思わせるものになっているなど本作は『初代マン』に洋画テイストを付け加えた作品とも言える。
自衛隊を退官した真木の再就職先は星川航空。ここで『Q』の主人公達をモデルにした万城目、一平、由利子が登場する。
戦闘機からセスナへと言う変化は面白かったがセスナの関係者の名前が『Q』のものをそのまま使ったのはちょっと残念だった。他の設定や名前は過去の作品を元ネタにしながらもオリジナル要素が加えられていたのでこちらも少し変えてほしかった。
本作の燃えるポイントの一つが真木と倉島の友情関係。平成ウルトラシリーズはこういう男臭い部分が段々少なくなっているので貴重だった。
ザ・ワンに捕まった真木をイーグルに乗った倉島が助けて呼びかける場面は『ネクサス』の孤門と姫矢に受け継がれる事になる。
BCSTによるセスナ操縦中の真木確保の場面は印象に残ったが、よく考えたら真木の仕事中にこんな大掛かりに拉致する必要は無かったような……。おかげで真木の家族だけでなく星川航空の関係者にも圧力をかけなければいけなくなってしまったし。
後半に起きたザ・ワンによる新宿地下の惨劇は表向きは毒ガステロによるものと報道される。この情報操作は『ネクサス』のMPを思わせる。
初期的変化を起こした真木は感覚が鋭くなってザ・ワンの過去の殺戮や接近を感じ取るようになる。一方で続く『ネクサス』では姫矢や憐に感覚や肉体的な変化はあまり見られなかった。
ザ・ネクストと同化した真木が身体の変化に戸惑い苦しんでいたので、その後は直接同化をするのではなくエボルトラスターと言うアイテムを介した間接的な同化にする事によって姫矢達にかかる負担を減らしたのかもしれない。
ところで真木はザ・ワン関係以外に継夢が倒れた事も感じ取った。ひょっとしたら真木の事情を察したザ・ネクストが教えてくれたのかもしれない。
ザ・ワンとザ・ネクストの最初の戦いに見られるようにこれまでのウルトラマンや怪獣が40m前後だったのに対して本作は数メートルの大きさも登場している。
シリーズが続くに従ってウルトラマンや怪獣が巨大になっていって結果として人間との距離が離れてしまったが、今回はウルトラマンや怪獣をいつもより小さくする事で人間との距離が縮まって迫って来る恐怖が生み出された。
この流れは『ネクサス』にも引き継がれて「溝呂木眞也を覗き込むメフィスト」と言った印象深い場面を生み出す事となった。
ザ・ネクストに変身しての最初の戦いだが、真木の意識がある程度あったようなので、『メビウス』の「心からの言葉」でリュウが初めて変身したヒカリのように、もっとがむしゃらに本能的に戦っても良かったかもしれない。
新宿地下で真木達の前に有働が姿を現して、沙羅が「ここは天国」と言って思い出と共に元恋人を撃ち、豹変した有働が伸ばした腕で沙羅を捕らえる一連の流れが面白い。
至近距離から最後の一撃を受けた有働は両肩から異形の角を生やしてザ・ワンに変身する。この両肩から異形の角が伸びる描写は『ネクサス』で西条副隊長が少女時代に遭遇した謎の男へと続いていくが、ザ・ワンと『ネクサス』に登場した謎の男は共通点が多いものの結局は別人だった事が明らかになる。ザ・ワンもザギの影響を受けていたのかな?
ザ・ワンを追って地上に出たザ・ネクストは倒壊したビルの下敷きになりそうだった母娘を助けてアンファンスからジュネッスへと進化する。
ザ・ワンが他の生物を吸収して進化する物質的な要素によるパワーアップなのに対してザ・ネクストは精神的な要素によってパワーアップしている。
ところでこの母子を助ける場面だがベタでも素直に蓉子と継夢を連想させる母と息子で良かったと思う。昭和ウルトラシリーズで少年を出し過ぎたせいか平成ウルトラシリーズは少女が登場する事が多い。
ザ・ワンとザ・ネクストの地上戦は周りのビル街の効果もあってウルトラシリーズでも巨大感がよく出ている場面となっている。
ビルより遥かに巨大にするよりビルより少し小さめにした方が逆に巨大感が増すと言うのは人間の感覚の不思議さ。
板野サーカスを駆使した空中戦はウルトラシリーズの歴史に名を残すものであった。
これまでのウルトラシリーズは撮影の関係で地上と空中の場面を分けなければならず、空中の場面では何も無い空をバックにウルトラマンや怪獣が飛んでいる事が多かったが、今回は地上から始まって、高層ビル群を経て、雲の中へと戦いの舞台が段々と高くなっていって、その後もバックに地上を映す事で高度を表現していた。
初めてこの空中戦を見た時は「今まで見た事が無い新しいものを自分は見ている!」と言う凄まじい感動があった。
ザ・ネクストとして空中戦を展開する真木はイーグルに乗っていた時の感覚を思い出す。いつもは家族の事を考えているがこの時ばかりは家族以上にイーグルドライバーとしての気持ちが強く出ていたように見える。だからこそウルトラマンに変身して怪獣と戦うと言う現実離れした事がやれたのかもしれない。
戦いを終えた真木は「満足できた」と死を受け入れようとするが家族との約束を守れなかった事が心残りだと告げる。もし真木に家族がいなくて帰るべき場所も無かったらザ・ネクストは自分の力を真木に与えなかったかもしれない。(因みにこの時に真木に力の大部分を与えた為にザ・ネクストは『ネクサス』の時まで眠りに就いていたらしい)
このザ・ネクストの行動は『初代マン』の「さらばウルトラマン」でハヤタ隊員に自分の命を与えようとした初代マンと繋がる。もし、あの時、ゾフィーが命を二つ持って来ていなかったら、初代マンはザ・ネクストと同じように大空へと帰る事になっていたかもしれない。
ザ・ワン・ベルゼブア・コローネの姿は悪魔に酷似していた。
ザ・ネクストの姿が真木の搭乗していたイーグルがモデルになっているとするならザ・ワンの姿は有働が持っていた悪魔のイメージが反映されたのかもしれない。
最終決戦でザ・ワンはザ・ネクストにカラスの部分を切り離された後にエボルレイ・シュトロームで分子レベルで分解された。後の『ネクサス』にカラス型のビーストが登場しないで、イズマエルに翼が無かったのはこの為なのかな?
戦いが終わった後、ザ・ネクストの活躍を見た子供達は憧れを込めて「ウルトラマン」と呼ぶようになった。
昭和のウルトラシリーズでは殆どがウルトラマン側からの自己申告であったのに対して、平成のウルトラシリーズでは人々が名付けるようになっている。
これは昭和のウルトラマンがウルトラの星と言う故郷があって家族や仲間がいると地球の人々の意識とは別に存在があるのに対して、平成のウルトラマンは人々の意識や想いが作用して存在が生まれるからだと思われる。
事実、多くの平成のウルトラマンがそうだったように『ネクサス』の最終回で人々の想いからウルトラマンノアが誕生した。
平成のウルトラマンは人々が「ウルトラマン」と名付けて、「ウルトラマン」として認めて、「ウルトラマン」として希望を託すようになって初めてその存在が確立する。
本作は第17回東京国際映画祭に特別招待作品として出品された。
正装したウルトラマン達がレッドカーペットを歩く場面がニュースになったが和服姿のウルトラの母が意外と似合っていて驚いた記憶がある。
当初は本作を2004年の夏に公開して、2004年の10月から放送が開始される『ネクサス』に繋ぐ予定だったが、実際には映画との関連が薄いファウスト編が展開されていた2004年12月の公開となって、「ULTRA N PROJECT」の目的の一つであった映画とTVシリーズのリンクがイマイチ上手くいかなかった。
公開当時は次回作となる『ULTRAMAN2 requiem』の企画も発表されたが、本作の興行収入が振るわず、『ネクサス』も放送期間が短縮され、「ULTRA N PROJECT」自体も終了してしまった為に製作中止となってしまった。しかし「神戸が舞台」と言う要素は後に『メビウス&ウルトラ兄弟』で使われる事となる。