帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『モスラ』

モスラ
1961年7月30日公開
原作 中村真一郎福永武彦堀田善衛
脚本 関沢新一
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎

 

ゴジラと並んで東宝怪獣の顔であるモスラが登場。
ゴジラアンギラスは「人間が着ぐるみに入って演技する」と言う形なのでどうしてもデザインに人間の形が残っていたのだが、本作に登場するモスラは卵、幼虫、繭、成虫と四つの形態が出ているがそのどれもが人間の形が透けて見える事が無いデザインとなっていて、その後に登場する怪獣デザインの幅を広げる事となった。。

 

これまでの特撮怪獣作品は「原水爆」「恐竜の生き残り」「宇宙人」とSFの要素が強かったのだが本作では身長30cm程の小美人が登場してファンタジーの要素が強くなっている。

 

ゴジラ』を始めとした1950年代の特撮怪獣作品はコミカルな場面が少なくて全体的に重い作風であったが、本作を始めとする1960年代の怪獣作品は細かい笑いがたくさんある明るくて楽しい作風になっている。

 

インファント島の「大海原にポツンとある忌み嫌われた島」と言う設定は昔の作品だと「船が遭難する」「怪物がいる」「危険な種族がいる」と言った理由が付けられていたと思われるが1961年公開の本作では「原水爆実験による放射能」が忌み嫌われる理由となっている。

 

インファント島で原水爆実験を行った国の名前は「ロリシカ」。
おそらく「ロシア(ソビエト)」と「アメリカ」を合わせたものだと思われる。

 

主人公の福田は「日東新聞の記者」と言う設定で、相棒の花村と一緒に国立核総合センターに変装して潜入した初登場シーンは「これだからマスコミは……」と批判されそうなものであったが、その後は演じるフランキー堺さんが出す陽性な雰囲気、癖のある上司や中條博士とのやりとり、子供達との交流等があって好感が持てる人物となった。
そして、ロリシカのネルソンが排他的で報道関係者をシャットアウトするので、ネルソンが隠している謎を暴こうとする福田を観客が応援したくなる作りになっていた。
又、もう一人の主人公である中條博士が研究一筋な為に悪人のネルソンと戦うには色々と危なっかしいところがあったので普段から一筋縄ではいかない連中を相手にしてきた福田が頼りになる存在となった。

 

ネルソンはインファント島で捕まえた小美人を使って東京でショーを開催する。
地球征服を企んだミステリアンやナタール人の後だとスケールの小ささは否めないが、島民から特別な存在として扱われていた小美人を物扱いして金儲けの見世物にしたところは相手の尊厳を全く考えていない事が分かって宇宙からの侵略者とはまた違う「悪」を感じさせるものであった。
ネルソンを演じたジェリー・伊藤さんは笑顔が最高にムカつくもので素晴らしかった。ネルソンは小物な悪役として完成度が高かった。

 

小美人は「30cm程の小さな人間」と言う特撮ならではのキャラクターで日本の特撮史に名を残す存在となった。
今回は小美人の「テレパシー」の能力が大きく取り上げられていて、東京に連れ去られた小美人がインファント島にテレパシーを発する事でモスラが東京に上陸する事になった他、使う言語が人間と異なっているがテレパシーを使う事で味方である福田達には自分達の考えを伝える事が出来て、敵であるネルソン達には秘密を隠す事が出来ると言ったように色々な使われ方をされていた。
因みに小美人を演じたのはザ・ピーナッツ。姿形が全く同じ二人が声を揃える事で小美人の神秘性がグッと増していた。

 

モスラは幼虫の時は「海」と「陸」を、成虫の時は「空」を活動範囲にしたり、都会から遠く離れた場所に伝説が残されていたりと『大怪獣バラン』のバランとの共通点がいくつかある。
大怪獣バラン』は「都会の科学の力が辺境の地に残されていた伝説を破壊していく」と言う展開であったが本作は成虫モスラが起こした強風によって東京とニューカーク市の町と軍隊が吹き飛ばされてしまうと「辺境の地に残されていた伝説が都会人の傲慢を打ち砕いていく」と言う展開になっている。

 

ゴジラ』はモノクロであったが本作はカラーとなっていて色々なものがハッキリと見えるようになった。そして色が着いただけでなく、ミニチュアの精度が上がり、避難や攻撃や野次馬に関わる人数が増えた事で本作のモスラによる東京襲撃場面は『ゴジラ』の時より色々と情報量が増えていた。『ゴジラ』からわずか7年でここまで技術や演出が進化した事に驚かされる。

 

南海の孤島であるインファント島とアメリカをモデルにしたロリシカは一見すると対極の存在に思えるが、それが最後に両者の祈りの碑文と歌には共通点があるとなり、ロリシカが原水爆実験でインファント島を傷付けたのに対して実はインファント島もモスラでニューカーク市を壊滅させる事が出来るとして両者に優劣は無かったと言う結末になっているのが興味深かった。

 

本作は「60年安保」を取り入れたところがあるらしく、モスラ横田基地を通って東京を破壊している他、日本がロリシカから原子熱線砲を供与される、日本人に直接の原因が無くても元凶であるロリシカ人のネルソンが日本にいたら日本が攻撃を受けてしまうと言う展開があった。
この事を頭に入れて本作を見ると、日本人の福田達がロリシカとインファント島の両方を救う事になった結末には色々と考えさせられるものがあった。