帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「少年が作ってしまった怪獣」

「少年が作ってしまった怪獣」
ウルトラマン80』制作第33話
1980年11月12日放送(第33話)
脚本 阿井文瓶
監督 湯浅憲明
特撮監督 佐川和夫

 

工作怪獣ガゼラ
身長 50m
体重 2万3千t
健一が作った玩具に怪獣の魂が入り込んだもの。
健一は父のライターで口からダイヤモンドも3秒で溶かすモンスターファイヤーを吐けるようにし、隣の病室の女性が壊したラジオの増幅器を胸にはめ込んでいた。
怪獣化した後も健一の設定通りの能力を持ち、口から炎を吐き、胸の増幅器で相手の攻撃を吸収増幅して角や増幅器から反撃する。サクシウム光線も吸収して80を圧倒した。
健一から胸の増幅器が外れやすい事を知らされた80は、ムーンサルトキックで増幅器を外し、ガゼラから離れた怪獣の魂をウルトラショットで消し去った。
撮影の大岡新一さんの子供が作った怪獣を原案にしてデザインされたとの事。

 

物語
病院で怪獣騒ぎが起きてUGMが調査に向かうが何の異常も見られなかった。
猛はそこで健一と言う少年と出会う。怪獣騒ぎによって健一の手術が延期された事を知った猛は……。

 

感想
「あの少年の悲しみや苦しみを目に見えるもので表したら、一体、どんなものになるんだろう……」。
今回の怪獣ガゼラは健一の心が生み出したと言える。学園編やUGM編やユリアン編に比べて評価の低い児童編だが、UGM編では遥か彼方に忘れ去られていた人間の心の闇=マイナスエネルギーの設定が(劇中では言及されていないが)再び取り上げられた事は評価すべきだと思う。

 

今回からオープニング映像が変更されている。
UGMのメカや怪獣による破壊描写は『T』や『レオ』を思わせる。
又、猛の映像が多いのも特徴。アニメの『ザ☆ウル』を除いて、今までは主人公と言えどもオープニング映像には人間が殆ど登場していなかったのでこれは画期的。

 

主人公と手術に恐怖心を抱く少年の交流と言う『セブン』の「勇気ある戦い」を思い出す話。
手術に恐怖する健一だが親や医者の前では明るく健気に振舞う。
ふと看護婦に「死んだらどうなるの? 天国って本当にあるの?」と弱音を吐くが、「病気なんてね、自分から治すぞって思わなきゃ治らないんだから」と言われてしまう。
その後、健一の恐怖を増幅させてしまう会話が聞こえてくる。
どうやら手術に失敗してしまった家族の会話。
「手術なんかしなければ良かったのよ!」、
「何を言うの! 手術をしなければ2ヶ月後には必ず死ぬ病気だったのよ!」、
「でも、手術しなければ、あと2ヶ月は生きてくれたわ!」。
手術に失敗した家族をこれから手術する人の病室近くにおいとくものなの?と言う疑問が……。

 

ガゼラはそんな恐怖から逃れる為に健一が作ったもの。
怪獣図鑑でガゼラのデザインを初めて見た時は正直言って「何だ、これ?」だったが、子供が寄せ集めで作ったものだと知って納得。
そして病院で起きていた怪獣騒ぎも健一が立体映像で作っていたものだと判明する。

 

怪獣騒ぎの真相に気付いた猛は健一の病室へ。そこで猛は恐怖と勇気について語る。
「僕もね、本当は凄く怪獣が怖いんだ。ビルみたいにデッカイし、物凄い顔しているし、それに力も強いし、火を噴いたり、殺人光線を出したり! ……本当に怖いよ。でも、戦うんだ! 怖くないものに向かっていく。それは当然の事なんじゃないかな? 怖いものに向かっていく。それが本当に勇気がある事じゃないかな?」。
猛(=80)も本当は怪獣と戦うのが怖かった。昭和ウルトラシリーズで主人公が自分の恐怖を吐露するのは非常に珍しい。(不安になる事は何度かあるが)
それにしても、やはり猛は子供に語りかける場面がよく似合う。

 

その後、怪獣の魂が入り込んだガゼラの玩具が怪獣になる。
健一はUGMに通報するが今までの偽の怪獣騒ぎのせいで信用してくれない。
しかし、健一は勇気を出して今までの事を謝って再度頼む。

 

最初は小さかったガゼラだが人間の大人程の大きさになり、猛のライザーガンのエネルギーを吸収して、さらに巨大になる。
……ライザーガンの影響で巨大化した怪獣はこれで何体目だ?

 

ガゼラの猛威に苦戦するUGM。猛は80でさえガゼラには敵わない事を知るが、それでも戦う! 健一はそんな猛を、80を見る。そして健一の援護を受けて80は見事ガゼラを倒すのだった。

 

あらゆる攻撃を吸収するガゼラの設定はフィルムの逆回転で表現されていた。古典的な演出だったが効果的だったと思う。

 

途中、健一の事が気になった猛は休日に城野隊員と一緒に病院に向かう。
猛は学校の休日にUGMに行く事になっていたので、逆にUGMの休日は学校に行っていなければおかしい。この事から、やはり猛は学校を辞めたと考えられる。

 

ガゼラの玩具に入り込んだ怪獣の魂。
ごく稀に殺しても魂は死なずに他の生物や物体に入り込んでまた暴れだそうとするものがいるらしい。
やはり健一の恐怖心が呼び寄せたのだろうか?
「矢的さん、80。僕も向かっていくからね。怖いけれど、向かっていくからね」。

 

今回の話は阿井さんのウルトラシリーズ脚本最終作となっている。この後、阿井さんは小説家として活動していく。