帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「空飛ぶ大鉄塊」

「空飛ぶ大鉄塊」
ウルトラセブン1999 最終章6部作』第2話
1999年8月5日発売
脚本 武上純希・お~いとしのぶ
監督 神澤信一
特撮監督 満留浩昌

 

宇宙昆虫ガロ星人
身長 40cm
体重 1.1kg
20年前に出版された『空飛ぶ大鉄塊』の秘密に気付いて大鉄塊を作り、完成させる為にキュルウ星人を付け狙う。
他の生物に寄生して意のままに操る。自身の戦闘能力は無いと思われる。
乗っ取ったキュルウ星人を使って大鉄塊を動かすがキュルウ星人の抵抗を受けて大鉄塊ごとセブンに倒されてしまった。
それぞれに名前があるらしく、一人は「チャグ」との事。(命名・鵜川薫)

 

鉄鋼ロボット大鉄塊
身長 67m
体重 6万4千t
キュルウ星人の宇宙船。
かつてキュルウ星人が乗っていた宇宙船は失われたらしく、キュルウ星人は宇宙船再建の為の技術を『空飛ぶ大鉄塊』と言う本にして出版していて、その秘密に気付いたガロ星人によって作られた。マグマを吸収して活動を開始し、宇宙船から人型に変形する。
量子エネルギー変換システムで吸収したエネルギーを量子ビームとして一気に解き放つ。重力遮断システムで宙を飛ぶ。捕獲ビームで相手の動きを止める。
『空飛ぶ大鉄塊』の上巻にはコントロール方法が書かれていなかったが、量子エネルギー変換システムだけでセブンをあと一歩まで追い詰めた。
量子エネルギー変換システムで量子化したキュルウ星人が大鉄塊と一体化する事で完成したが、キュルウ星人によって動きが止められた間にセブンによって爆破された。

 

帰化宇宙人キュルウ星人
身長 175cm
体重 88kg
宇宙船を失って地球に漂着したので、故郷に帰る為に『空飛ぶ大鉄塊』と言う本に宇宙船(大鉄塊)を再建する為の技術を記したが、秘密に気付いたガロ星人に狙われて姿を隠す事になる。
サトミ隊員の父親とは親友で正体も知られていたらしい。
ガロ星人が大鉄塊を作った事を知り、自ら決着を付ける為に量子エネルギー変換システムで量子化して大鉄塊と一体化し、大鉄塊の動きを止めてセブンに倒させた。

 

物語
サトミ隊員はフレンドシップ計画を強引に進めるカジ参謀に反発し、休暇を取って田舎に帰る。
一方、突如現れた謎の機械はかつて出版された『空飛ぶ大鉄塊』と言う空想科学小説と同じ展開を見せる。
その小説を書いた人物の正体は……。

 

感想
地球防衛軍はフレンドシップ計画に基づいて地球に敵対しうる知的生命体の可能性を持つ牡牛座の連星・惑星TMR-ⅡCをワープ航法ミサイルで破壊する。
ミサイルの発射場面は『セブン』の「超兵器R1号」を、ワープ航法ミサイルは『ガイア』の「宇宙怪獣大進撃」を思わせる。どちらも人類はギリギリのラインで踏みとどまったが『平成セブン』の地球防衛軍は遂にそのラインを踏み越えてしまった、

 

フレンドシップ計画は太陽系の永遠の平和の始まりか地球人の愚かな歴史の始まりか世論は真っ二つに分かれていた。と言っても劇中でその場面が描かれていないのは残念。やはりデモとかあったのかな。
地球防衛軍でも惑星TMR-ⅡCで観測された核分裂反応を恒星間ミサイルの可能性と見るカジ参謀とウラン鉱脈内の自然核分裂の可能性と見るウルトラ警備隊とが衝突。ミサイルの可能性だけで星一つ消してしまうカジ参謀は異常であるが、「栄光と伝説」で語られた彼の回想シーンを見ると、その異常をしなければいけないほどの事態があったのだろう。
本作が発売された2年後に始まる対テロ戦争ではアメリカの動きは異常なところがあったが、あの9・11の後だとそうなってしまうのも仕方が無いかもと思ってしまう雰囲気はあった。戦争と言う異常事態は平和な世の中に生きる者には分からないものがあるのかもしれない。
『最終章6部作』の発売は1999年だが、その内容は2001年のアメリ同時多発テロ以降の世界を先取りしていたところがある。『セブン』を手掛けた市川森一さんの言葉を借りるなら「来るべき自らの悲劇を予見する」と言ったところだろうか……。

 

カジ参謀のやり方に反発したサトミ隊員は休暇をとって里帰りする。
ところで何故にルミ隊員も付き合う? ウルトラ警備隊の活動はまだ縮小されたままなのだろうか。
カジ参謀の事を気にするサトミ隊員に向かってルミ隊員は「気にしない方がいいですよ、あんなオヤジ」と言っている。
ルミ隊員から見たらカジ参謀はオヤジなのか……。(因みに影丸茂樹さんとあだち理絵子さんは5歳差)

 

翁島で出迎えに来た叔母ちゃんに対してサトミ隊員は自分達はOLをやっていると答える。おそらく今は自分の仕事に自信を持てなくなっているのだろうが、叔母ちゃんがサトミ隊員の仕事を知らないのは不自然。サトミ隊員は子供の頃からウルトラ警備隊を目指していたし、世界中でわずか数名しかなれないウルトラ警備隊員になれて親戚が知らないわけがない。第一、前回のヴァルキューレ星人の策略でマスコミに載ってしまっていたはず。

 

ルミ隊員は意外と酒豪であった。昔で言ったらオヤジギャルみたいな感じかな。ウルトラシリーズでこういうキャラクターは珍しい。
サトミ隊員は姉御肌。このキャラクターはよくいる。

 

サトミ隊員は父の出版社が最後に出版した本『空飛ぶ大鉄塊』を探し出す。
子供の時に何度も父に読ませてもらっていた本で、この本の主人公みたいに地球を守りたいとウルトラ警備隊を目指したのだった。
その頃、本の挿絵に描かれた光景がそのまま現実でも起こっていた。それを知ったサトミ隊員は本に書かれてあった続きを語る。事情を知らないウルトラ警備隊はサトミ隊員が先の事態を予見できた事に驚き、カザモリは「第六感では?」と凄い事を言い出す。(そう言えば『セブン』の「マックス号応答せよ」でダンは第六感を使っていた)

 

ウルトラ警備隊から帰還命令が出たサトミ隊員とルミ隊員はのんきに荷物をまとめてフェリーで帰ろうとする。そんなんで間に合うのか?
ウルトラホークで迎えに来てもらおうとルミ隊員が提案するが妨害電波のせいで迎えを呼ぶ事が出来なかった。因みにウルトラ警備隊がこの妨害電波に気付いたのはかなり後になっての事。敵が現れて帰還命令を出した割に緊張感がいまいち無い。

 

シラガネ隊長はサトミ隊員が朝送っていた『空飛ぶ大鉄塊』のFAXを読むが、時代錯誤の空想科学小説とまともに相手しなかった。しかし、ミズノ隊員は挿絵に描かれた図形が地球防衛軍で研究中の重力遮断システムや量子エネルギー変換システムにそっくりなのに気付いて驚く。それを知ったシラガネ隊長は信じられないながらもミズノ隊員に『空飛ぶ大鉄塊』の分析を命じる。
分析の為に読んでいたミズノ隊員だったが読んでいるうちに結構ドキドキしたらしく全てが終わった後に「下巻読みたかったなぁ」と呟いている。今回はよくある「本に書かれた事が現実に起こる話」なのだが完成度が高かった。

 

遂に新撮映像でウルトラホークの発進シーンが描かれる。
ただ、『セブン』と比べると全体的に物足りない感じ。

 

シラガネ隊長の命を受けてカザモリが翁島にやって来て、ルミ隊員はサトミ隊員が行方不明になってしまった事を告げる。ちょっ、行方不明になったのなら探しなさいよ。
すると、ルミ隊員はそこら辺にある自転車を勝手に拝借。意外と図太い……。
そんなルミ隊員を乗せて自転車を漕ぐカザモリだが、自分と同じように息を潜めて生きようとする異星人の息遣いを聞き、ルミ隊員を自転車から落っことして先に行ってしまう。ひ、酷い……。
その後、自転車に乗ってサトミ隊員を探して見付けたルミ隊員は元あった場所とは全然違う場所に自転車を置いていってしまう。い、いいのか……。

 

宇宙人に寄生されたサングラス男に襲われて崖から転落したサトミ隊員だったが謎の男に助けられて洞窟で介抱される。
夢の中で『空飛ぶ大鉄塊』を読ませてもらっていた事を思い出すが、読んでくれていたのは父ではなく実は辺見のおじちゃんで、襖越しに見えていた謎の影も父ではなく辺見のおじちゃんであった。
大鉄塊が街を破壊する場面を読んでもらった少女時代のサトミ隊員が問う。
「何故? 何故大鉄塊はそんな酷い事をするの?」、
「それはね、大鉄塊にはまだ心が組み込まれてなかったからだよ」。
答える声に目を覚ましたサトミ隊員の目に辺見のおじちゃんが写る。
子供の時、辺見のおじちゃんが旅立った思い出は実は父の旅立ちだった。
そして「ごめんね、おじちゃん、宇宙人だから」と言う辺見のおじちゃんの言葉が真実であった事も知る。

 

かつて宇宙船を失って地球に漂着したキュルウ星人は故郷に帰る為に失った宇宙船(大鉄塊)を再建しようとした。宇宙船の技術を本にして世に出せば再建できる技術力を持つ科学者の目に留まるかもしれないと考えたのだが、実際に目に留めたのはガロ星人だけで地球侵略の為に大鉄塊が作られる事になってしまう。
出版された『空飛ぶ大鉄塊』の上巻には全ては書かれておらず、未出版の下巻が無ければ大鉄塊は完成しなかったのでガロ星人はサトミ隊員の父の出版社を爆破し、サトミ隊員を狙ったのだった。
どうやらサトミ隊員の父はキュルウ星人の事情を全て知っていたようだ。その上で本の出版をし、ガロ星人に狙われたキュルウ星人とサトミ隊員を翁島に逃がして自分は東京に残るとはかなりの覚悟。
キュルウ星人の設定は『帰マン』の「怪獣使いと少年」に登場したメイツ星人に似ているが、今回はサトミ隊員の父親と言う良き理解者がいて本当に良かった。

 

ガロ星人は今から20年前に『空飛ぶ大鉄塊』の下巻を求めて暗躍していたが、その時は諦めたのか、キュルウ星人が行方を眩ませてると目立った動きは無くなっていた。しかし、今また下巻を求めて動きを活発化させた。その理由をキュルウ星人は以下に語る。
「今まで地球は宇宙の片隅にある小さな星に過ぎなかった。しかし今、地球は宇宙に乗り出そうとしている。巨大な武力を使って……。今、地球は全宇宙から注目されている。しかし、忘れてはならない。科学は正義の為だけに使われるべきだ。決して力として誇るべきものではない」。
つまりガロ星人はフレンドシップ計画を警戒して地球に対して先制攻撃を打とうと行動を再開したのだ。
フレンドシップ計画によって今まで地球をあまり気にしていなかった星も地球が宇宙の破壊者になるのではないかと警戒するようになった。つまり、フレンドシップ計画によって地球は今まで以上に危険な状態となったのだ。
『Q』の「宇宙からの贈りもの」で宇宙に乗り出そうとする地球人に対して宇宙からの警告があったが、その警告も空しく、最悪に近い形で地球人は宇宙に乗り出してしまった。
自分達が宇宙を構成する数多くの星の一つだと言う自覚を持てず、自分達の身を守る為だけに周りの星を傷付けていく。たとえ宇宙に活動の場を広げても、それでは宇宙時代に進めたとは言えない。

 

カザモリ(ダン)と辺見芳哉の会話場面は白い背景に互いの黒い影が交差する演出が渋くて格好良かった。テレパシー演出でも上位に来る演出だと思う。

 

マグマを吸収して活動開始する大鉄塊。あまりに懐かしいレトロな変形シーンが嬉しい。
登場したセブンを上空で待機して待ち構える大鉄塊が何かカッコイイ。
大鉄塊との戦いは『ウルトラセブンのバラード』がセブンとキュルウ星人とサトミ隊員のウェットなドラマと合っていた。
今までの『平成セブン』は本編と特撮のドラマが乖離していたところがあったが今回はちゃんと本編を受けて特撮のドラマを展開していて良かった。
キュルウ星人が止めてくれなかったらセブンは大鉄塊には勝てなかった。ウルトラシリーズに登場するロボット怪獣はとにかく強い。これは『セブン』のキングジョーからの伝統。

 

大鉄塊は爆発し、セブンの手に残された量子エネルギー変換システムも消滅する。
キュルウ星人の言動から量子エネルギー変換システムは相手に攻撃された時の防御策だったと思われるがガロ星人はそれを防御以上の攻撃に使用した。
それは表向きは宇宙からの侵略に対する防御策でありながら実際は防御を超えた攻撃となったフレンドシップ計画に通じるところがあるのかもしれない。

 

キュルウ星人はサトミ隊員に「科学は正義の為だけにあると思い出させてくれた」と語っているが、キュルウ星人にも科学を正義の為以外に使おうとしていた事があったのだろうか?
ひょっとしたら、キュルウ星人が地球に来た本来の目的は実は侵略だったのかもしれない。

 

戦いが終わり、カザモリは「辺見芳哉は自分の筆で『空飛ぶ大鉄塊』に「終」の文字をやっと書き込んだんだ」と呟く。
そしてサトミ隊員は『空飛ぶ大鉄塊』の最終章を語る。
「私は思った。科学は常に正義の為にあらねばならないと。決して殺戮や破壊の為に使われてはならないと。それはとても難しい事なのだろう。しかし、それは不可能ではない。空想科学に夢を見て表紙を開いたあの幼い日を、科学に夢見たあの日の事を、忘れさえしなければ……」。
こうして『空飛ぶ大鉄塊』は完結した。
この後の無音で夕陽に帰っていくウルトラホークとそれに続くエンディングへの入り方が上手かった。ただ他の話にも言える事だが、エンディングで流れる映像は他の話の映像を混ぜずその話の映像だけにした方が良いと思う。後の話の映像を入れられると、そちらに気が向いてしまってエンディングに集中できなくなってしまう。