「太陽の背信」
『ウルトラセブン誕生30周年企画』第3話
1998年8月5日発売
脚本 右田昌万
監督 高野敏幸
特撮監督 神澤信一
太陽獣バンデラス
身長 110cm~46m
体重 20kg~3万8千t
地球から180光年彼方にある蠍座と蛇遣い座の中間に位置するバンデラス系太陽の化身。
百億年の寿命を迎えた為、スターゲイトを使って目玉の状態で地球にやって来て人間のマイナスエネルギーで再び燃え上がろうとした。
宮西村に金を出して人間を争わせ、そこから発するマイナスエネルギーを吸収していた。マイナスエネルギーを人間に注入して自分の意のままに操る事も出来る。
ダンにバンデラス系宇宙に既に生命はいないと告げられて動転。サトミ隊員の高性能爆弾でスターゲイトを破壊され、無数の目玉を有する怪獣となる。
無数の目玉から光や黄色の光線を発し、両手を合わせて捕獲光線を発する。姿を消す事も出来る。エメリウム光線を手で受け止める。
夕陽の力を得てパワーアップするが中心の目にアイスラッガーを受け、さらにワイドショットを受けて活動を停止させる。その後、パーフェクトフリーザーで氷漬けにされ、宇宙空間で再びワイドショットを受けて大爆発を起こした。
物語
ある田舎町で金が発見され、人々は金を求めて醜い争いを繰り広げる。
その原因はかつての輝きを再び取り戻す為に人間のマイナスエネルギーを得ようとするバンデラス系太陽の化身にあった。
感想
『誕生30周年企画』の最終回。
今回の話は「宇宙の記憶」が取り上げられているらしい。
「地球より永遠に」と同じく今回も壮大な宇宙の話を小さな村を舞台に展開している。
今まで仲が良かった相手でも襲って金を奪おうとする人々とそれとは逆に自然に逆らう事無く自然と共に生きていこうとする老人。村だ国だ星だ宇宙だと言ってもスケールが違うだけで、そこで物語を紡ぐ生命に違いは無いのかもしれない。
人間には様々な感情のエネルギーがあり、その中でもマイナスの感情、人間の怒り憎しみ欲望が発するエネルギーをバンデラス系太陽の化身は欲しがっていた。
同時期に放送された『ダイナ』の「平和の星」でもマイナスエネルギーが登場したが、まさか『80』で登場した「マイナスエネルギー」と言う設定を90年代後半に再び耳にするとは思わなかった。
今までの話はダンが物語の中心だったが今回の話はウルトラ警備隊が物語の中心になっている。
TVスペシャルで消息不明になったダンの復活を描かなくてはいけなかったので『誕生30周年企画』ではウルトラ警備隊の描写は少なく、次の『最終章6部作』でウルトラ警備隊に焦点を当てた話が作られる事になる。
カザモリは途中でダンが入れ替わっているので実はカザモリ本人は物語の中では脇役になっている。事件に関する記憶が殆ど無いはずなので後でどのようにして皆と話を合わせたのかちょっと気になる。
因みにカザモリと入れ替わったダンはテレパシーと透視能力を使ってバンデラス系太陽の化身を発見している。自分が宇宙人である事を隠す気あるのだろうかと心配になる。ダンらしいと言えばらしいが……。
最初は山芋一つで喜んでいた夫婦が金が出た事から争う事になる。
バンデラス系太陽の化身にマイナスエネルギーを操られて熱狂と無気力を何度も繰り返す展開が面白いが演出がイマイチだった。悪意が満ちた状態があまりにもステレオタイプな悪人描写だったし、悪意を失った状態はもはや酔っ払いか麻薬中毒者のような感じだった。
後にサトミ隊員が「人間はバンデラス系太陽の化身に悪意を取り除いてくれた方が良い」と言うが、こんな呆けた姿を素晴らしいと言うのはさすがにおかしい。実際は問題があるとしても最初の場面ではサトミ隊員が素晴らしいと思ってもおかしくない描写にしてほしかった。
原子物理学のイナダ教授は人間が生きていくのに必要なエネルギーはほんの少しのはずと考え、それを実践する為に街を離れ、村、それも周りの人々とは距離を置いた中で生活を送っていた。
収穫はあったのかと尋ねるカザモリにイナダ老人はドングリを渡し、ドングリ一つにはスーパーコンピューター並の情報遺伝子が詰まっているとし、スーパーコンピューターが大きくなって500年生きるとは聞いた事が無い、人間の作った科学よりドングリ一つの方がまだまだ圧倒的にレベルが高いと答える。
文明批判や自然賛美の話は多いが今回のイナダ老人の話はなかなか説得力があったと思う。
ただ自分一人がその生活をするのならともかく孫も巻き込むのはどうかなと思う。(孫は今の生活に満足していると言うが、孫のダイチはウルトラ警備隊の存在も知らなくて、イナダ老人がダイチと他の人間が話をする事を注意している節もある。それは洗脳に近い)
辺りが暗くなり、ウルトラ警備隊の前にバンデラス系宇宙と地球を繋ぐスターゲイトが現れる。その中には人の顔を思わせる星雲があり、言葉と共に口を思わせる部分が動いていた。
そして現れる謎の目玉、バンデラス系太陽の化身。
人間が太陽系に住んでいるようにバンデラス系太陽を巡る多くの惑星にも様々な生き物が住んでいる。しかし、百億年の寿命を迎えた自分にはもう燃やす力は残っていない。そこで、もう一度燃える為に地球にやって来たのだと語る。
地球は宇宙一汚れた星で、同じ星の生き物同士が喰らい合い、欲望と憎しみが渦巻いて、その悪臭は宇宙一杯に漂っている。地球ほど膨大なマイナスエネルギーが集まった星は無いと語るバンデラス系太陽の化身。
人間にとって不必要なむしろ無い方がありがたいマイナスエネルギーで自分は再び燃え上がる事が出来るとして、バンデラス系宇宙を救ってくれたらその代わりに地球に未来永劫の平和を約束すると告げる。
バンデラス系太陽の化身は本心から頼んでいるのだが、さり気にかなり酷い事を言っている。
それにしても地球が宇宙の中でもそこまで酷い星と思われていたとは……。
良い星とは言い切れないが、他の星を侵略しようとしている星達より遥かに酷いとは思えない。
それとも実は全ての侵略者は本当は善意の存在だったが地球に近付いたら人間が発するマイナスエネルギーに毒されて悪に変わってしまったとか? 『セブン』の「ウルトラ警備隊西へ 後編」でのペダン星人の変心の理由は説明出来るようになるかもしれないが、『セブン』に登場した侵略者を全てそれで括ってしまったら面白さが無くなってしまいそう。
バンデラス系太陽の化身の話をサトミ隊員はこんなに素晴らしい話は無いと喜ぶがシマ隊員は信じられないと疑う。
サトミ隊員はバンデラス系太陽の化身を人間に危害を加えず人間からマイナスエネルギーを取り除いてくれる存在として賛美するが、金を使って村人を争わせた事はどう説明するのだろうか?
実際にマイナスエネルギーを吸収されたシマ隊員は欲望とは言え勝手に盗まれるのは心の侵略だと憤る。
面白いのはミズノ隊員でバンデラス系太陽の化身が善か悪かと言う話にあまり興味が無くて、人間のマイナスエネルギーが石油等に替わる新たなエネルギーになるかもしれない、バンデラス系宇宙の人々と交流する事で人類のテクノロジーは飛躍的な進歩を遂げるかもしれないと皆と違う部分に着目していた。
参謀会議ではバンデラス系太陽の化身の言う事を信用できるかどうか、まずは話し合ってみてはどうかと色々な意見が出るが、結論はスターゲイトの破壊であった。
いくらなんでも急な結論。まずは話し合ってみようと言う意見はどこに行ったんだ? バンデラス系宇宙の人々を見殺しにするのかと言うサトミ隊員の問いかけにも答えられていなかったし。
『平成セブン』は地球防衛軍を意図的に悪く描こうとしているところがあるが、どうにもその展開が強引過ぎる。これが『帰マン』や『A』ならまだ分かるのだが、『セブン』の上層部は昭和ウルトラシリーズの中でも現場の意見に耳を傾けて冷静に判断を下していたので違和感がある。
宮西村に残っていたカザモリが星空を見ていると、そこに味噌煮込みを持ってイナダ老人の孫のマリがやって来る。
カザモリは「世の中が皆あなたみたいな人だったら地球はもっと平和になるでしょうね」と語るがマリは「私はそうは思いません。色んな人間がいるから楽しいんじゃないでしょうか」と答える。
さらにマリは「私、今日、あなたに嘘を吐きました。私、本当は今の暮らしに満足していません。私、街に出たいんです。大勢の人の中で自然と生きる生活がどこまで出来るかやってみたいんです。嘘を吐いた事、お詫びします」と告白する。
マリもイナダ老人も自然と生きていくと言う点では同じなのだが、人間を肯定するか否定するかと言う点で二人には決定的な違いがある。
隠していた気持ちを告白して走り去っていくマリの後姿を見たダンはカザモリから元の姿に戻って「僕の方こそ……」と呟くとカプセルの中からカザモリを出す。
事情が分からないカザモリはダンに色々と質問する。ダンはそれには何も答えなかったがカザモリの前でセブンの姿に戻って飛び去っていく。それが全ての答えであった。
参謀会議の決定を受けてサトミ隊員は高性能爆弾(スパイダーみたいな固有名称が欲しかったなぁ)を持ってスターゲイトを爆破しに行く。
まだ迷っているけれどマイナスエネルギーはあげられないと言うサトミ隊員の言葉を聞いたバンデラス系太陽の化身は人間とはつくづく分からない生き物だと呟くとバンデラス系宇宙の何千億もの生命の営みをお前の手で消し去っても良いと告げる。
そう言われて出来るわけがないがおそらくそれがバンデラス系太陽の化身の狙いなのだろう。しかし、そこにダンが現れて衝撃の宣告をする。
ダン「バンデラス系宇宙に生命は無い。バンデラス系宇宙に生命のある星はもはや存在しない」、
太陽の化身「嘘だ……」、
ダン「バンデラス! 自分でもよく分かっているはずだ。君は昔ほど輝けない。熱くもなれない。君にとってちょっとした変化でも君を巡る惑星達にとってはそれは史上最大の天変地異なのだ。そこに乗っかっているだけの生命にとってはもっと最悪だった」、
太陽の化身「私の老いが……、私の子供達を……」、
ダン「中には他の太陽系に旅立った形跡もあった。つまり、彼らは君を見捨てたんだ。バンデラス系宇宙にはもう住めないとね」、
太陽の化身「嘘だ……、嘘だ。嘘だぁー!! 私はもう一度燃える! 私がもう一度燃えれば、きっと子供達も帰って来る! 私が燃えれば新しい命も誕生する! 燃えてやるぅー!!」。
そんなバンデラス系太陽の化身をみてサトミ隊員は「もう宇宙に帰って!」と叫んで爆弾のスイッチを押すのであった。
バンデラス系宇宙には既に生命はいなかったと言う展開はかなり衝撃的であった。
「生命が旅立った形跡があった」と言うところで生き残りがいた喜びよりも太陽を見捨てたと言う悲しみを強調していたのが実に『平成セブン』らしいところなのだが、ここでそんな言い方をしてバンデラス系太陽の化身を追い詰めてダンはどうするつもりだったのだろうか? 『平成セブン』に限らないが悲劇にする為に強引に話を展開していくのは個人的には好きではない。
あと今回の話はバンデラス系宇宙の人々を見殺しにする事が出来るのかと言うサトミ隊員の葛藤があるのだがバンデラス系宇宙は既に滅んでいたで終わらせたのはちょっと逃げだったかなと思う。
セブンとバンデラスの戦いは普通の怪獣バトルとなっている。
今回の話は壮大な宇宙の話を小さな村で展開しているので太陽の化身であるバンデラスが小さな村レベルの大きさの怪獣になるのも分からなくもないが同じ時期に登場している『ダイナ』のグランスフィアを考えるとやはりスケール感の乏しさは否めなかった。(でも今回はセットをかなり広くしてバンデラスがあえて小さく見えるようなカットがあるので怪獣形態のバンデラスのスケールが乏しいのは意図的なものなのかな?)
戦いが終わってバンデラスを宇宙空間に運んだのはセブンの優しさかと思ったが実はマイナスエネルギーを多く含んだバンデラスの爆発の範囲を考えてであった。
結果的に戦う事になったがバンデラスは悪意の無い敵だったのでもう少しフォローが欲しかった。
夕陽を見てウルトラ警備隊は「いつか太陽もバンデラス系太陽みたいになるのか」「その時に人類はどのような選択をするのか」と言う話をする。それに対してカザモリは「太陽にはバンデラス系太陽みたいに悪足掻きは止めてほしい」と答える。
う~ん……。他人の心を侵略した事は許されないが「もう一度輝きたい」「もっと生きたい」と言う気持ちまで否定するのはどうかなと思う。特に今回は太陽の老いの話が人間の老いの話に繋がっているので、人間は自然に寿命で死ぬべきだと言う事になってしまう。それも一つの考えではあるが、何としてでも生きたいと言う人もいるわけで、それを否定してしまう言葉を最後の締めにしてしまうのは個人的には疑問である。
「太陽より人間の方が凄いかもしれない。何故なら一人一人が太陽を燃やすほどの凄い力を持っているから」と呟くサトミ隊員。
確かにそうなのだが、今回の話で人間はその力を争い憎しみ合う事にしか使っていなかった。出来れば人間の凄い力が事態を好転させる場面も入れてほしかった。(まさかスターゲイト破壊が事態好転の場面ではないよね?)
『平成セブン』と同時期に制作された『ダイナ』には今回と似た話として「平和の星」と最終章がある。
人間の可能性を取り上げた『ダイナ』と人間の暗部を取り上げた『平成セブン』と両作の方向性の違いが分かる話となっている。
事件が解決して家路に着くフルハシ参謀だったがいつもと違う道を走っている事に気付いて運転手に話しかける。すると「寄り道もたまにはいいですよ、フルハシ参謀」と答える運転手はダンだった。『セブン』でダンがポインターの運転手の予定だったのを思い出す心憎い展開。
港にて話をするダンとフルハシ参謀。
フルハシ「ダン、お前にとってはほんのちょっとの寄り道だったんだろうな。いやいや、地球にいた時間さ。……俺、孫が出来るんだよ。つまり、おじいちゃんだな。その孫が大きくなって子供を生む。すると俺はひいじいちゃんだ。その子供が大きくなって……、その時には俺はもうこの世にいないだろうがな……、ダン、お前は生きてんだろうな。俺の孫の、孫の孫の孫の孫の孫の代まで、お前は生きてんだろうな……」、
ダン「人間に生まれたかったと思った事もあります。ずっとこの星にいたいと思った事も……」、
フルハシ「いつでも帰って来てくれ。人間はいつでもお前を心から歓迎する。それがどんなに遠い未来でも……、またこの星に寄り道してくれ」、
ダン「ありがとう、フルハシ参謀。お互いに会うのが楽しみですね。人類は受け継ぎ、それを繰り返す事で成長する生き物じゃないですか」、
フルハシ「その通りだ。また会おうぜ」。
手を握り合う二人。そしてダンはセブンに変身して飛び立ち、フルハシ参謀の方を振り向いて飛び去っていく。宮西村からウルトラ警備隊がそれを見ていて、シラガネ隊長は静かに敬礼する。最後に「ダァーン……!!」とフルハシ参謀が叫び、セブンは星空に帰って行ったのであった。
現在の地球が決して褒められた存在ではないと知りながらもいつか人間は良くなると信じ、その時は自分が死んでいても自分の孫が、たとえ友人が死んでいてもその友人の孫と再会するであろうと語り合うフルハシとダン。この場面は出来れば年を取った地球人フルハシに対して宇宙人ダンは昔のままの若い姿であった方が良かったが、さすがにそれは当時の技術ではまだ無理だったか。宇宙人ダンが地球人フルハシと同じように外見が年をとっているのはよく考えればおかしいのだが、ダンなりに地球人に合わせようと少しずつ外見を変えているのかもしれない。
他の作品と違って『平成セブン』は若者が主人公でないのでダンとフルハシのような長年の友と言う関係が出てくる。ウルトラシリーズはウルトラマンの再登場はあるが地球人の再登場は少ない。『平成セブン』のダンとフルハシの話が良かったので、ウルトラマンと地球人の絆を描く為にも地球人の再登場も増やしてほしい。
ところで「地球星人の大地」でダンが「フルハシに今会うのはまずい」と言っていたのは結局何だったのだろうか? 劇中それに対する回答は無かった気がする。宇宙の掟と言うやつかな?