帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「カオスを倒す力」

「カオスを倒す力 ーカオスヘッダー・イブリース登場ー
ウルトラマンコスモス』第26話
2001年12月29日放送(第26話)
脚本 大西信介
監督 北浦嗣巳
特技監督 佐川和夫

 

カオスヘッダー・イブリース
身長 66m
体重 6万1千t
人間に興味を持ったカオスヘッダーは感情を知る為に人間を次々にさらう。カオスヘッダーに取り憑かれた正太パパは異様な表情を浮かべて眼から光線を右手から衝撃波を撃つようになる。正太の声に苦しんで正太パパから抜け出したカオスヘッダーは変異体でもコピー体でもない実体カオスヘッダーとなった。
超強力波動クローキームーブを放ち、空間を歪ませて相手の攻撃を吸収するクローキーバリアーを展開する。カラータイマーからコスモスの情報を得て分析する。
コスモスを追い詰めるが無事を喜び合う正太親子の姿を見た直後に自己崩壊を起こし、最後はコロナモードのネイバスター光線を受けて爆発した。シノブリーダーによると人間の持つ優しさと言う感情を制御できなかったとの事。
名前の由来はイスラム教の悪魔「イブリース」から。

 

物語
東京各地で人々が怪しい光に消される事件が続発する。
人間に興味を持ったカオスヘッダーは人々を次々にさらい、ある親子に狙いを付けるが……。

 

感想
怪しい光カオスヘッダーに消された人々は10日前後で発見されるがその間の記憶が無く、ただ誰かに体の中を覗き込まれ分析された気分だけが残っていた。乗っ取られながらも肉体が変異していなかった事からEYESはカオスヘッダーが人間に興味を持って人間の事を知る為に一時的に体を乗っ取っているのではないかと推理する。
因みにカオスヘッダーは喧嘩する二人から「怒」、振られて泣いている女性から「哀」、正太とパパから「喜」「楽」の感情を得ていったと思われる。
これら人間の情報を基にカオスヘッダーが実体を作り出すと悪魔を思わせる姿になったと言うのは色々と深読みできる話である。
今回は2001年最後の放送で第2クールのまとめとなる話で、今まで漠然としたイメージだったカオスヘッダーの実体を出す事で第3クール以降に向けて色々と分かりやすい形になった。

 

ウルトラシリーズ群馬県が登場するのは珍しい。(まぁ、群馬県に限らず、大型地方ロケ以外で都道府県がはっきりと出る事が殆ど無いんだけど)

 

仕事で家を空ける事が多いパパは正太といつでも会話が出来るようパソコンを教え、正太の今度の誕生日プレゼントには携帯電話を買う予定だった。これらコミュニケーションツールが正太とパパの絆となっていて、カオスヘッダーも正太パパの感情を知る為にパソコンが置いてある部屋に閉じ込めて正太と連絡を取れるようにしていた。
パソコンや携帯電話が出てくるところに『コスモス』は21世紀の作品と言う事を改めて感じる。

 

東京に出張したパパがカオスヘッダーにさらわれた事を知った正太も行方不明になり、ムサシはパパを探しに東京に向かったんだと訴え、かつて自分も父親が災害に巻き込まれて連絡が付かなくなった時に家を飛び出して会いに行った事を語る。
ここで語られる父親とは『THE FIRST CONTACT』にも登場した勇次郎。実はムサシは最初の父親である五十畑浩康が事故死した時にも、その死を信じられなくて遠くまで歩いて保護された事があったらしい。かつて父親の死を経験したから勇次郎が被災した時に再び父親がいなくなる事を恐れたのだろうし今回のパパが消息不明になった正太の気持ちも理解できたのだろう。

 

正太に届いたメールを頼りにムサシは正太パパを見付けるが、それはカオスヘッダーに取り憑かれて異様な表情を浮かべていた。
ムサシ「お前はカオスヘッダー?」、
カオス「カオス……ヘッダー? それは……我々の事か?」、
ムサシ「何故……人に取り憑く?」、
カオス「人の感情は……面白い」。
『コスモス』はコミュニケーションが一つのテーマとなっている。今までカオスヘッダーは意思疎通が不可能な(そもそも意思を持っているかどうかも不明な)光のウイルスであったが、今回、取り憑かれた人間を介して初めての意思疎通が行われた。これが最終回への大きな道となっていく。

 

カオスヘッダーに取り憑かれた正太パパがムサシを襲うが、そこに正太がやって来る。愛する子供の言葉にカオスヘッダーは苦しみ正太パパから抜け出すと巨大な人型となって実体化。ムサシは正太を、シノブリーダーは正太パパを連れて脱出し、ムサシはコスモスに変身する。
て、この流れだとシノブリーダーにムサシの正体が怪しまれそうなのだが……。シノブリーダーがムサシとコスモスの関係に気付いていないのだとしたらムサシは敵前逃亡になってしまう。

 

今までコスモスが戦ってきた変異体やコピー体を超える実体カオスヘッダー。
戦闘でもカオスパラスタンに大ダメージを与えたソーラーブレイブキックを防ぐ等、強さが表現されていた。

 

コスモスの苦戦に「ウルトラマンがこの星で活動する為のタイムリミットはおよそ3分! 頑張れ!」と言うナレーションが入る。
放送開始から半年経ったこの時期に活動時間を示すナレーションが入るのは珍しい。パッと思い浮かぶのは『初代マン』の「怪獣殿下 前篇」くらいかな。

 

イブリースはEYESの援護も退けてコスモスを後一歩まで追い詰めるが、無事を喜び合う正太とパパの姿を見つめるといきなり体が不安定になって苦しみ出し、その隙を突いてコロナモードはネイバスター光線でイブリースを撃破する。
強敵撃破と言うカタルシスある場面であるが狩野親子を見つめるイブリースの姿に和解への道筋が垣間見えただけにその隙を狙って倒したコスモスとそれを喜ぶEYESの姿勢に少し疑問を抱いてしまう。
今の時点ではコスモスやEYESにとってカオスヘッダーは単なる脅威でしかないが、終盤になるとカオスヘッダーを倒す以外の解決方法があるのかどうかと言う話が出てくるようになる。

 

後日、元気になって笑顔の狩野親子をムサシとシノブリーダーが見送る。
ムサシ「いい親子ですね」、
シノブ「本当に……。二人の絆にカオスヘッダーは負けたのかもしれない」、
ムサシ「え?」、
シノブ「カオスヘッダーが取り込んだ人間の感情の中で制御できないものがあった。それが排除できずに……」、
ムサシ「それで自己崩壊した……」、
シノブ「そう思いたいの。人の優しさがカオスヘッダーを倒したって……」、
ムサシ「そうかもしれない。いや! きっとそうです! 人の心にあるのは怒りや憎しみばかりじゃないんだから……」。
確かに人の心には優しさがある。だが怒りや憎しみがある事も事実。後の「強さと力」でムサシはそれを身を持って思い知る事になる。
人間から「混沌」と言う名前を与えられたカオスヘッダーだが、それ以上に混沌としていたのは人間の心だったと言うのが面白い。
因みにシノブリーダーは人の優しさがカオスヘッダーを倒したと語っている。上で述べたように、この時点ではカオスヘッダーは倒される敵として扱われているが、様々な話を経た最終回では優しさによってカオスヘッダーが救われる事となる。