帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』

ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』
2024年2月23日公開
脚本 中野貴雄
監督 田口清隆

 

地底甲獣ズグガン
身長 幼体・167cm 成体・50m
体重 幼体・1t 成体・3万t
生態・習性がかけ離れているタガヌラーと一緒にかなりの数が工場地帯に現れたがブレーザーとアースガロンによって倒された。
ネクロマス社に保管されている宇宙怪獣の細胞に反応して出現したと思われる。

 

甲虫怪獣タガヌラー
身長 60m
体重 5万t
生態・習性がかけ離れているズグガンと一緒にかなりの数が工場地帯に現れたがブレーザーとアースガロンによって倒された。
ネクロマス社に保管されている宇宙怪獣の細胞に反応して出現したと思われる。

 

妖骸魔獣ゴンギルガン(第1形態)
身長 54m
体重 5万4千t
ダムノー星人が防衛隊のミサイルでネクロマス社の研究施設を攻撃した事でダムドキシンが他の保管されている怪獣達の細胞を融合させて誕生した。
感情=魂を求めていてダムノー星人の正体であるマブセ・ユウキを取り込む。

 

妖骸魔獣ゴンギルガン(第2形態)
身長 59m
体重 5万9千t
ユウキを取り込んで第1形態から姿を変えた。
ユウキの感情とシンクロしていて、SKaRDにユウキを奪い返された後もコピーしていたユウキの感情で暴れ続けた。
能力を攻撃に全振りして破壊の限りを尽くす。
最後はブレーザーとアースガロンに引き抜かれた触覚の付け根にアンチ・ダムドキシン特殊弾を撃ち込まれ、ブレーザー光線とアースキャノンを同時に受けて倒された。

 

物語
工場地帯にズグガンとタガヌラーが多数出現した事件を受けてSKaRDはネクロマス社を調査する事になる。そこに宇宙の覇者を名乗るダムノー星人からのメッセージが送り込まれて……。

 

感想
ブレーザー』の劇場版。
『トリガー』『デッカー』ではツブイマのオリジナルコンテンツとして配信と劇場公開が同時に行われていたが今回は劇場公開のみとなった。(劇場公開から一ヶ月後にツブイマで配信開始となっている)

 

ウルトラシリーズの劇場版は『光の星の戦士たち』の頃からTVシリーズで出来ない事をするとして他のウルトラマンとの共演等が盛り込まれていたが本作ではそのようなゲストキャラクターは登場しないでTVシリーズの一つのエピソードのような形になっている。
個人的には『ブレーザー』はTVシリーズが『ガイア』の26話までで今回の劇場版は『ガイア』のバラエティ編みたいなイメージがあるかな。ゲント隊長とブレーザーの関係が皆にバレなかったのも『ブレーザー』の物語がまだ終わっていなくて昔の作品で言ったらまだ中盤くらいだからなのかなと思う。オープニングの映像がちょっと変わっているのも劇場版と言うよりTVシリーズの第3クール突入!と言う感じだった。
そのせいか、今回は劇場版なのだがTVシリーズの最終章よりスケールが小さいと感じるところがあった。

 

幼体のズグガンとタガヌラーに囲まれたゲント隊長を守る為にブレーザーストーンが光って怪獣達を撃退した場面は仮面ライダーを思い出した。
自分は好きな流れなのだが戦闘員的な怪人がいる仮面ライダーシリーズと違ってウルトラシリーズは今回のように人間大の怪獣がワラワラ出てくる事が少ないので見られる機会はあまり無い。

 

怪獣廃棄物処理・研究を行う国際的な企業であるネクロマス社が登場。研究データは特殊装備研究所にフィードバックされて装備開発の手助けになっていてチルソナイトスピアーもネクロマス社の技術で作られたらしい。だが、宇宙怪獣の死体は極めて危険で厳重な管理をする都合上、情報は一切シャットアウトされているとの事。
これだけ怪獣が出現するのならその処理や研究を行う部門や会社が必要になるだろうし、強大な怪獣の能力を研究して兵器を作ろうと言う発想も当然出てくるであろう。昔はその手の研究は地球防衛軍的な組織が一手に担っていたが防衛隊とは別の会社が手掛けるようになったのは今の時代らしいなと思う。

 

台詞のみの説明であるがハルノ参謀長が日本支部の司令官に昇進した事が判明する。責任を取らせられて降格や退役になっていなくて良かった。
エミ隊員は人使いが荒いと文句を言っていたがハルノ司令官のこれまでの言動を見ていると以前より仕事はしやすくなったと思う。(実際、スペシャルボイスドラマの「SKaRDの燻される夜」でその辺りに触れられている)

 

怪獣出現にネクロマス社が関わっている可能性が出たのでエミ隊員は被害状況の事後調査と言う名目でアポイントを取る。
エミ、かく戦えり」では変装して潜入捜査をしていたが今回はそのような裏技を使わなくて正攻法で調査が出来るようになったところに防衛隊が変わってきている事を感じる。防衛隊の上層部はダムドキシンの危険性を分かっていながら兵器転用を進めていたので以前だったら表だって調査を進めたら中止命令が下っていた恐れがあるが今回はハルノ司令官直々の命令での調査となった。

 

ネクロマス社が現在研究しているのは人間とは全く違う原理で動いている宇宙怪獣の細胞の遺伝子情報を利用した「ダムドキシン」で、これによって細胞は老化せず永遠に生き続ける事も可能との事。
ブレーザーの年齢は不明だが多くのウルトラマンは一万年以上の時を生きられる体を手に入れているので、マブセ社長が述べた「不老不死は伝説やお伽噺ではない」と言うのは頷けるところがある。
最終的にダムドキシンは否定されるのだが自分としてはマブセ社長の考えは全て否定されるものではないと思う。今の医療技術だって昔の考えだとアウトだが現在の倫理観だとOKになったものがいくつかあるわけだし。

 

宇宙の覇者ダムノー星人はダムドキシンは地球の環境に悪影響を与えるものだと告げる。この直前にも環境問題を理由に省庁の認可が下りないと言う話があったので、この理由は不自然ではなかった。『ブレーザー』に影響を与えている『ガイア』でも根源的破滅招来体が地球を襲う理由の一つに人類による環境破壊があったし。(実はダムノー星人は『ガイア』の中でも「怪獣の身代金」の影響が強かった存在だったりするが)

 

ダムノー星人の行動を見て「やけに地球の技術を使いこなす宇宙人だなぁ……」と呟くゲント隊長。ダムノー星人の正体の伏線なのだが『ブレーザー』にはコインランドリーを利用する宇宙人や演奏会を開くほど楽器を扱える宇宙人や喫茶店に通い詰めている宇宙人がいたので彼らと比べるとダムノー星人は王道の宇宙人だったりする。

 

SKaRDと防衛隊の他の部署とのイザコザの間に時間切れになってしまうのを見ると『トリガー』『デッカー』のTPUは風通しが良くて報連相がきっちり出来る組織だったんだなぁと改めて思う。
ハルノ司令官が現在の参謀長を飛び越してSKaRDに直接指示を出したのも防衛隊が組織として硬直したままでネクロマス社を調査するのに色々と障害があったのでSKaRDを使うしかなかったと思われる。

 

人々を守るはずの防衛隊の戦力が人々に牙を剥く展開は『平成セブン』を思い出す。
こちらの地球防衛軍も組織が硬直した結果、防衛軍の存在が地球の人々にとって脅威になってしまうところがあった。

 

ダムドキシンには暴走の危険性があった。
ファースト・ウェイブ」でバザンガに打ち込んだ特殊弾は結構な効果があったのにどうしてその後は使われなくなったのかなと疑問に思っていたのだが実は十分なテストもしないまま危険な事をしていたと言う理由が判明して納得した。
結果として特殊弾はバザンガを倒すきっかけになったのだが、バザンガとダムドキシンが融合してとんでもない事態になっていた恐れもあったわけか。

 

実は産業スパイだったニトウだがマブセ社長のニトウへの態度がパワハラと言えるほどに酷かったので「そりゃまぁ裏切りたくなるよなぁ……」と納得できるところがあった。
ニトウは銃を使って子供を人質に取る悪人ではあるが、父親のマブセ社長からパワハラを受けて息子のユウキが作った怪獣に殺されるとマブセ父子によって散々な目に遭っていてちょっと気の毒。

 

ダムノー星人が会社の屋上に逃げるところや目の前でダムノー星人の話が始まって困惑しているニトウの場面は事態の緊迫感とのギャップがあってちょっと笑える場面になっている。ただ、その後の「子供は大きくなると言っても50mになるとは思わない!」もだったが今回はギャグかなと思う場面も演出ではあまり笑わせる感じにしていなかった。

 

ダムノー星人の正体はマブセ社長の息子であるユウキだった。
「大人達は自分の欲望の為に手段を選ばない」と訴えるユウキ自身が「父親に振り向いてほしい」と言う自分の欲望の為に防衛隊のシステムをハッキングして怪獣ゴンギルガンを誕生させて無関係な人々を襲うと手段を選んでいなかったりする。

 

ユウキの訴えがドストレートな現在社会への批判になっているがゲント隊長達が訴えの中身についてどうこう言う場面は殆ど無く、ユウキは自分の寂しさや怒りを世の中の怒りに置き換えていると言う話になっている。
ブレーザー』は第1話から現在社会の問題を取り上げていて、その中で大人であるゲント隊長達が何とか最善を尽くす話になっていたので、子供のユウキが現在の日本の社会システムを作ってきた国会議事堂や霞ヶ関を壊そうと言う分かりやすい方法を採ろうとしたのは大人と子供の違いがあってなるほどと感じた。
ただ、今回の映画は社会批判は実は重要なテーマではなくて、ウルトラシリーズの目玉の一つであるミニチュア特撮の面白さの為に今回は国会議事堂を出す事になって、物語の中で国会議事堂を破壊する理由付けの為にユウキの社会批判が付けられたのかなと思う。

 

ブレーザー』と言うか田口監督作品は「リアリティとは別にミニチュア特撮を壊す面白さ」をやっているところがあって今回もミニチュアの破壊に力が入れられているのだが今回はユウキと言う人間の子供が関わった怪獣ゴンギルガンなので街が破壊されると「事件が解決した後のユウキはどうなるのかな……」と不安になるところがある。
ゴンギルガンの中のダムドキシンの暴走と言う理由付けはあるが子供が誕生させた怪獣に明確に人殺しをさせるのはやめてほしかったかな。

 

子供が怪獣の誕生に関わるのはこれまでにもあったがユウキの場合はヤプールやマイナスエネルギーやカオスヘッダーと言った超常的な力を借りないでハッキングと言う自前の能力でゴンギルガン誕生まで至ってしまったのがヤバい。
これが『トリガー』の世界だったら「事件解決後にシズマ会長が何とかしてくれた」で済むが『ブレーザー』の世界ではユウキのような存在を利用する大人がいそうでユウキの今後が心配になる。

 

「怪獣の中にいる子供を救出すると言う極めて繊細な作戦はブレーザーには出来ない」と判断するゲント隊長。まぁ、確かにそうなのだがブレーザーが怒るのも無理は無いw

 

ブレーザー』を見ていてゲント隊長は父親として問題があるなぁ……と思っていたが今回登場したマブセ社長と比べると家族や部下を信頼して自分の意見を押しつけないようにしていたので実はかなりマシだった事が分かった。

 

ブレーザー』は設定や人物のドラマについてハッキリと分かりやすく描かないで「察する」「行間を読む」ところがあるのだが、今回のマブセ父子の話は「親に気持ちを察してほしかったが察してくれなかった子供の感情が爆発する」となっていて、ゲント隊長の妻サトコの話も「ハッキリと教えないと子供は不安になる」となっている等、「察したり行間を読むのも大事だけれどハッキリと言葉にしないと伝わらないものも世の中にはたくさんある」となっている。

 

ゲント隊長とマブセ社長は「仕事を優先して家庭を後回しにした」「息子は聞き分けの良い子供に育った」と共通点が多い。唯一違う点は「ゲント隊長の妻は子供が出来た」のに対して「マブセ社長の妻は病気で死んだ」とどちらも病院に通ったが結果が真逆だった事であろう。
ゲント隊長は息子が母親の異変を訴えてもまともに取り合っていなかった。最後に息子から伝えられるまで妻の妊娠に気付いていなかったので「子供でも分かるレベルで妻がいつもと違っていたのに気付かなかった」となり、妊娠だから良かったもののこれが病気だったら手遅れになっていた恐れがあった。もしサトコが病院に通っていた原因が病気で手遅れになっていた場合、ジュンがユウキのようにゲント隊長を父親失格と判断する可能性は非常に高かった。そう考えるとゲント隊長の家庭がマブセ社長の家庭のように崩壊しなかったのは「運が良かっただけ」とも言える。

 

最後にあった「魂」についての話は『ブレーザー』の世界観を示しているのだろうが、この話だとアーくんの扱いはどうなるんだろうとちょっと思う。
ヴァラロンもだったが今回のゴンギルガンも倒さなくてはいけないのは分かるけれどもう少し救いのある扱いにしてほしかったかなと思う。特に『ブレーザー』は途中まで怪獣の扱いが良かったので余計に気になった。

 

主題歌はTVシリーズのオープニングを担当したきただにひろしさんにエンディングを担当したMindaRynさんがコーラスで参加した『星と獣』となっている。

 

スペシャルボイスドラマとして「首都直下撃滅作戦」「SKaRDの燻される夜」がツブイマで配信されている。
ゴンギルガンの第3形態や第4形態が誕生したり、いずれパイロットいらずになりそうなアーくん、新しい特殊部隊の設立やアースガロンの量産、いつか訪れるかもしれないブレーザーとの別れと本作の後日談となっている。

 

「SKaRDの燻される夜」を聞いてふと思ったのだが、ワームホールが閉じて自分の星に帰れなくなったと言うのならファードランは普段は地球のどこにいるんだろう?