帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「森の友だち」

「森の友だち ーヤマワラワ登場ー
ウルトラマンコスモス』第9話
2001年9月1日放送(第9話)
脚本 武上純希
監督・特技監督 原田昌樹

 

童心怪獣ヤマワラワ
身長 61m
体重 6万8千t
ヤマワラワ山脈に伝わる民話に語られている子供に見えて大人には見えない妖怪。フブキ隊員はカオスヘッダーの影響で生まれたのかと考えるが実際は無関係だった。ムサシは昔から棲んでいた古代生物の生き残りかと考えるが真相は不明。
普段は優しいが怒ると何倍にも膨れ上がる。
かつて怪我をした康佑少年を介抱して友達になるが、やがて哀しい別れを経験する事になる。その後、康佑父親の子供である佑一少年と出会って友達になり康佑少年とも再会するが、大人になってしまった康佑父親から別れを告げられて再び哀しい別れを経験する事となった。
漢字では「山琶羅倭」と書く。「山の子供」と言う意味らしい。

 

物語
森の中でヤマワラワと出会ったと語る佑一少年。
父親の康佑はヤマワラワは民話の中の存在だと語るが……。

 

感想
子供にだけ見える妖怪と触れ合った子供の話と思いきや実は子供の時にその妖怪と触れ合っていた大人の話。こういう話では大人は子供にとって無理解な現実の象徴として描かれる事が多いが今回はそこから一歩踏み出して大人もかつては子供だったと言うエピソードが付け加えられた。
大人に押さえつけられていた子供が大人になったら子供に同じ事をしてしまうと言うのが深い。そう言えば「子供は自分が最も嫌いな大人になる」と聞いた事があるが、子供の時の自分は大人になった今の自分を見てどう思うのか……、考えてみるとちょっと怖い。

 

今回はウルトラシリーズで定番の一つである土地に伝わる伝説の妖怪話。
ヤマワラワは一時期は観光の目玉だったらしくヤマワラワバナナなるものまで売られていたが現在は閉店している。康佑少年がヤマワラワと出会った時はまだ怪獣が殆ど現れていなかったが現在は数多くの怪獣が現れて保護されているので、人間に危害を加えないヤマワラワが再び注目と人気を集めて観光の目玉となる可能性は大いにある。

 

旅館ヤマワラワの女将が終始意味ありげで不気味だった。
今回は単なる雰囲気作りの一つと言った感じだったが続編の「妖怪の山」で意外な正体が明らかにされる。

 

ヤマワラワと出会った事を父親の康佑に否定された佑一だったが、ムサシは佑一の言葉を信じる。それは自分も子供の時にウルトラマンと出会った事を誰にも信じてもらえなかったと言う過去があったから。ムサシのこの台詞で今回の話も第5話から続くメインキャラの子供時代の紹介と言う要素が加えられる事となった。
実はムサシと佑一少年の絡みはこの場面ぐらいなのだが、この台詞一つで今回の話と『THE FIRST CONTACT』が繋がる事となった。どちらも子供が空想の産物と思われた存在と実際に出会う話で『THE FIRST CONTACT』は子供の話だったが今回はかつて子供だった大人の話となっている。今回の話を見てふと思ったのだが、『THE FIRST CONTACT』のシゲムラ参謀も康佑父親みたいにかつてはウルトラマンを信じていたのかもしれない。

 

「子供に見えて大人には見えない」と語られているヤマワラワだが、大人であるEYESには見えていて康佑少年をイジメていた子供達には見えていなかったので、実際は年齢ではなく心の在り方に関わっていると思われる。

 

佑一少年がヤマワラワに連れて来られた洞窟には子供のオモチャがいくつかあった。かつて康佑少年が持ってきた物であろうか? ヤマワラワが康佑少年と別れた後も残されたオモチャで一人遊んでいたと思うと切ない。

 

康佑少年の引越し場面で『ガイア』のらくだ便が登場する。
正直言うと放送当時は世界観が異なる『ガイア』の設定を『コスモス』に持ち込まないでほしいと思っていたが、今はマルチバースの設定があるので別の宇宙でも地球があって日本があるのなららくだ便があってもおかしくないかなと思うようになった。

 

EYESは『TEAM EYES Network』と言うホームページで怪獣の目撃情報や報告例を収集したり公開したりしていた。昭和の頃は基地に電話をかけるか知り合いの隊員に話をするかで一般人と特別チームの情報のやり取りが行われていたが平成に入るとインターネットが使われるようになった。新しいツールとして面白そうだったが残念ながらあまり活用されなかった。どうにも『コスモス』は平成三部作に比べて細かい設定や小道具の使い方が上手くなかった印象がある。
因みにこのホームページにはギャラリーや隊員日記もあるらしい。どんな内容か非常に気になる。

 

EYESが祐介少年を連れ去ってしまうと思い込んで暴れるヤマワラワを大人しくさせる為にムサシはコスモスに変身するとコロナモードにモードチェンジしてヤマワラワを圧倒する。
落ちてきたロボット」のイゴマスの時のようにルナモードでは力不足なのでコロナモードになったと思われるがそれでも圧倒的な力で無理矢理押さえつける光景はあまり感心できない。この「暴れる相手を殺さず大人しくさせるにも力が必要」と言う話は「強さと力」である悲劇を生み出す事になる。

 

正直言うと今回の話はコスモスの登場に必然性が無くて最初から康佑父親がヤマワラワを説得する方が自然な流れだった。
元々ウルトラマンデウス・エクス・マキナとして最後に現れて物語を締める役割を担っていた。これまでの作品では人間でも敵わない怪獣や宇宙人を圧倒的な力で倒す事でウルトラマンの存在理由が示されていたが、怪獣や宇宙人を無闇に倒さないとした『コスモス』ではその存在理由が大きく揺らぐ事となった。
必殺光線を撃って相手を倒せば良かったこれまでと違って『コスモス』では相手とのコミュニケーションが大事になるのだが、コスモス自身は殆ど喋らないのでコミュニケーションを行って物語を締めるのは人間の役割となった。結果、『コスモス』でのウルトラマンの存在理由は人間がコミュニケーションを使って物語を締めるまでの時間稼ぎか人間が失敗した時の尻拭いぐらいしかなくなってしまった。
『コスモス』ではウルトラマンの存在理由を上手く作れた話もあったが作れなかった話もいくつかあった。この問題にある程度の解決方法を考えておかないと『コスモス』の後継作品はかなり難しい事になるだろう。(実際、『X』もその辺りは苦労したと言う話を聞く)

 

EYESが探知したカオスヘッダーをヤマワラワ山脈で見失った事が今回の事件の始まりであった。カオスヘッダーが現れてから不思議な生物の目撃情報が相次いでいたのだが結局はカオスヘッダーとヤマワラワの事件は無関係であった。
フブキ隊員はヤマワラワの巨大化をカオスヘッダーの影響かと考えたが全ての原因をカオスヘッダーに結び付けて考えてしまうのは非情に危険。

 

子供の時に出会ったヤマワラワと再会した康佑父親。
「ごめんよう……。君を忘れていたわけじゃないんだ……」。
子供の時と同じく手を差し伸ばすヤマワラワ。子供の時と違って首を振る康佑父親。
「駄目なんだ……。僕はもう……大人になってしまったから……。もう……君と……遊んではいられないんだ……」。
その言葉を聞いたヤマワラワは康佑父親に背を向け森の中に消えていった。
「ヤマワラワァーー!!」。
こうして康佑父親はかつてあった子供時代を思い出し再び正面から向き合った事で子供時代に別れを告げたのだった。

 

「もうヤマワラワは二度と人間の前には姿を現さないのでしょうか? いいえ、ヤマワラワは寂しがり屋です。あなたの目の前にひょっこりと現れるかもしれません。あなたが子供の心を失っていなければ……」。