帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「遙かに輝く戦士たち」

「遙かに輝く戦士たち」
ウルトラマンZ』第25話
2020年12月19日放送(第25話)
脚本 吹原幸太
監督 田口清隆

 

殲滅機甲獣デストルドス
身長 80m
体重 6万t
世界各地の地球防衛軍を壊滅させてゼットも一度は倒した強敵。
ラストバトルとしてヘビクラ隊長率いるストレイジとの決戦に挑む。
特空機との戦いでハルキによってパイロットのヨウコを助け出され、最後はゼットオリジナルのゼスティウム光線で倒された。

 

寄生生物セレブロ
身長 1m
体重 12kg
様々な星で「文明自滅ゲーム」を行っていた諸悪の根源。
ヨウコに寄生してデストルドスを操っていたがハルキによってヨウコを奪還されゼットによってデストルドスを爆破されるとコンティニューの為に逃亡しようとしたがジャグラーに阻止され、そのままユカとカブラギに捕獲されてしまった。
『ティガ』の「蜃気楼の怪獣」のデスモンのプロップを改造している。

 

物語
ヘビクラ隊長は第1特殊空挺機甲群からストレイジ基地を奪還してセレブロとの決戦に挑む。特空機3体の活躍によってハルキはヨウコ先輩の奪還に成功。そしていよいよハルキはゼットへの最後の変身を行う。
「ご唱和ください、我の名を! ウルトラマンゼェーット!!」。

 

感想
最終回のタイトルは「遙かに輝く戦士たち」で主人公である「遙輝(ハルキ)」の名前が入っている。やはり最終回はこのように何かしら仕掛けがあるタイトルが来てほしいなと思う。

 

遂にストレイジと防衛軍が衝突する事になるが実際はジャグラーと防衛軍の衝突で終わっている。まぁ、人間同士で戦ってしまうと、いくらセレブロが諸悪の根源だと判明しても禍根が残りそうなので、この後に姿を消すジャグラーが全ての戦いを引き受けるのが一番良い落とし所だったと思う。

 

ユウキ・マイが「ヘビクラは敵勢宇宙人でウルトロイドゼロ強奪にも関わっている」と言ったが、実際にセレブロがハルキを人質に使っていなかったらジャグラーはあのままウルトロイドゼロを強奪していただろうから彼女の発言は間違っているとは言い切れない。
だが、既にジャグラーストレイジを助ける事へと方向転換していてジャグラーの他にセレブロと言う真の首謀者がいてとユウキ・マイの知らないところで事態がどんどん推移していて結果として彼女は道化を演じてしまう事となった。

 

「ハルキはキングジョー、俺はウインダムで出る。なんとしてもデストルドスからヨウコを救い出し、奴を殲滅する! ここが標的になるかもしれない。本部の連中が殺到する可能性もある。俺は怪しい宇宙人だしな。危険を感じたらすぐに逃げろ。逃げていい。これが俺達ストレイジの最後の戦いだ! 全員生きて帰ってバコさんのマグロで打ち上げするぞ! ゴー! ストレイジ!!」。
出撃前のヘビクラ隊長の演説が盛り上がる!
ロボットアニメで演説と言えばガンダムシリーズが思い浮かぶが、そう言えばウルトラシリーズで隊長格が大勢の前で演説すると言うシチュエーションは意外と無いかもしれない。

 

ヘビクラ隊長が演説で言った「逃げていい」は本当はミコットに聞いてほしかった言葉なんだろうなぁ……。

 

どうして今まであんな事をしてきたのか?と言うハルキの質問にジャグラーは「お前ら人類もセレブロも調子に乗りすぎず諦めもしないように調整してやってた」と答える。
微妙によく分からない答えだなと思ったら実はジャグラーはここで全てを話していない。と言うか『ウルトラマンZ完全超全集』に収録されている「ジャグラスジャグラークロニクル ジャの道は蛇」を読んだらジャグラーは大事な事は何も話していない事が分かる。『Z』でのジャグラーの行動の理由や原因は全てジャグラーがこの地球に降り立つ前の出来事に起因しているのだがジャグラーはここでハルキに惑星カノンの事もビランキの事もサジタリの事も語っていないのだ。

 

『Z』でのジャグラーの目的がハッキリと分かりやすく説明されている場面が無いので色々推測するしかないが「ジャの道は蛇」でジャグラーが「いのちの木を斬ったのは自分なりの正義を貫いた行動だった。そうじゃないと無駄死にしたミコットになんて顔をすればいいんだ」と言っている場面がある。
ミコットの死をきっかけにジャグラーは暴走していのちの木を斬ってしまったので、ジャグラーがいのちの木を斬った事が間違いだとしたら、ジャグラーが暴走するきっかけとなったミコットの死も悪いものとなってしまう。ミコットの死に悪い意味を与えない為にもジャグラーはミコットの死をきっかけに起こした自分の行動を間違っていたとしてはいけないのだ。
ジャグラーがそう思おうとしていると言う事は実はジャグラー本人も本当はいのちの木を斬った行動が間違っていたと心のどこかで思っている事になる。(ご丁寧に「ジャの道は蛇」ではいのちの木を失った惑星カノンのその後がマイナスなイメージで描かれている) それなら素直に過ちを認めた方がその後の人生も生きやすかったと思うが、ミコットの事を考えてそれが出来ない不器用さが実にジャグラーらしいなと思う。

 

ジャグラーの目的がウルトラマン達を見返す事だとして、人造ウルトラマンウルトラマン達を見返す事にどう繋がるのかイマイチよく分からないが、「ジャの道は蛇」でジャグラーは「負けた事の無いウルトラマン達は自分達の正義の危うさを分かるわけがない」と言っているので、ジャグラーウルトラマン達を負かす事が出来る戦力が欲しかったのかもしれない。この時点でジャグラーは巨大化能力を失っているので、巨大ロボを持っていなければウルトラマン達と戦う事すら難しい状況だったのだろう。

 

ジャグラーは『オリジンサーガ』で色々あったアスカを敵視しているところがあるが、そんなジャグラーがアスカを見返す手段として用意したのがストレイジと言う自分が指揮する特別チームやウルトロイドゼロと言う人造ウルトラマンだったのはなんと皮肉な事か……。
アスカは『ダイナ』の時点でウルトラマンに対抗しようとブラックバスター隊と言う自分が指揮する特別チームやテラノイドと言う人造ウルトラマンを用意したゴンドウ参謀と対立した事があるのだ。
『オリジンサーガ』でのアスカはジャグラーの事情をあまり考えずに注意したところがあるが、『Z』でのジャグラーもアスカの事情を知らずに対抗手段を用意したところがある。

 

アスカが惑星カノンでミコットの死をきっかけに魔人態になっていのちの木を斬ったジャグラーを厳しく注意した理由だが、おそらくそれは『ダイナ』の「あしなが隊長」でアスカがヒビキ隊長に言われた「怒りの下僕に成り下がったら人間の負けだ」だと思われる。『オリジンサーガ』の頃のアスカは怒りに任せるとどのような結果になってしまうのかを分かっていたのだ。

 

仮面ライダーと違ってウルトラマン達は出自等が違っていてもウルトラマンである事に変わりはないとして比較的簡単に同じ方向を見る事が出来るところがあるので、どちらも正しい事を為そうとしたのに結果的に衝突してこじれてしまったジャグラーとアスカのケースは珍しくて記憶に残った。

 

何となくであるが、ベテラン戦士となったアスカと若い頃のジャグラーは『オリジンサーガ』で衝突したが、逆に『Z』の頃のジャグラーと『ダイナ』の頃のアスカが出会っても衝突しそう。でも、若い頃のアスカとジャグラーだったら表面上は喧嘩しながらも最終的には絆が生まれそうで、ベテラン戦士となったアスカとジャグラーが会ってもお互いの違いが分かった上でちゃんと任務は成功出来そうなイメージがある。

 

『Z』でのジャグラーの分かりにくさだが、『オリジンサーガ』で色々あったアスカやムサシを見返すだったらまだ分かりやすいのだが、実はジャグラーは見返す相手をアスカやムサシと言う個人ではなく「光の戦士」「光の国」と言うウルトラマンそのものへと拡大させてしまっている。
『オリジンサーガ』でジャグラーと一緒に戦ったウルトラマンはオーブ、ダイナ、コスモス、ガイア、アグルとなっていて光の国のウルトラマンは一人もいない。光の国出身ではないが光の国のウルトラマンから正義のあり方を教えられたと言うのならともかくアスカもムサシも我夢も藤宮も光の国のウルトラマンと出会う前に色々あって自分達の正義を既に確立させている。だから、ジャグラーが光の国のウルトラマン達まで敵視するのはお門違いと言える。
おそらくだがジャグラーはこの宇宙を光と闇の二つに分け、ウルトラマンに変身する者は出自に関係無く全て光側の存在とまとめてしまっているのかもしれない。だから戦士の頂、ダイナ、光の国と同じウルトラマンであっても出自は違う者達を一つにまとめて「自分達の正義の危うさに気付いていない光の者達」とした。「ベリアロク」で「光だの闇だのに興味も無い」と言っていたジャグラーだが実はずっと光と闇に拘り続けていたと言える。『Z』のジャグラーは『オーブ』の頃に比べて落ち着いた雰囲気があったが実はこじらせ具合はさらに悪化しているのかもしれない。

 

『Z』のジャグラーは善か悪かだが自分はヴィラン側だと考えている。
おそらく視聴者のイメージではユウキ・マイの方が悪役な感じがするかもしれないが、結局のところ彼女の考えは「人類の手で地球を防衛する為に次々と強力な兵器を投入していく」なので目的自体は間違っていない。ジャグラーストレイジを敵視したのも状況を考えたら仕方が無いところがあるし。では、ユウキ・マイが視聴者から悪人のイメージを抱かれるようになったのは何故なのか。それは『Z』がストレイジや整備班に感情移入するように作られているからだ。だから、ストレイジを脅かす第1特殊空挺機甲群には悪い嫌なイメージを抱くようになる。
よく考えたらストレイジもキングジョーストレイジカスタムで宇宙人のオーバーテクノロジーを使っていて最初はコントロールが出来ていないところがあったし、Twitterストレイジ広報もストレイジに不都合な情報は隠していたりとユウキ・マイや第1特殊空挺機甲群と似たような事をやっているのだが、視聴者も劇中の人物もストレイジ関係はOKで第1特殊空挺機甲群関係はNGと言う反応を示すようになっている。
世の中は「善い・悪い」で物事が決められているように見えるが実は人間は理屈よりも感情が優先されるところがあるので「善い・悪い」と言う理屈よりも「好き・嫌い」と言う感情が理由になる事が多々ある。ストレイジ関係と第1特殊空挺機甲群関係の対立で視聴者や劇中の人物は実は「ストレイジが善で第1特殊空挺機甲群が悪」と言う理屈ではなく「ストレイジが好きでストレイジを脅かす第1特殊空挺機甲群が嫌い」と言う感情で物事を判断していたところがある。
『オーブ』でメイン脚本を務めた中野さんが「『オーブ』は光と闇や善と悪ではなく「粋か野暮か」」と話した事があって『オーブ』の劇中でも善悪は時代遅れだ野暮だと言った話があった。ぶっちゃけて言ってしまえば『Z』のジャグラーヴィランだが粋な奴でジャグラーと対立する者は野暮な奴なのだ。
ウルトラシリーズは子供向けのヒーロー作品なので基本的には勧善懲悪になっているのだが、その中で善悪ではない基準で視聴者や劇中の人物がジャグラーとその仲間達を肯定するように作品を展開するのは難易度が高かったと思う。脚本・演出・役者の演技と色々なものが上手く噛み合わなかったら全てが成り立たなくなっていた恐れがある。
まぁ、長々と書いたが『Z』のジャグラーの話を簡単にまとめると「ヴィランだけれど格好良いジャグラーを皆が好きになっちゃったし、ジャグラーも皆が好きになっちゃった」になるのだと思う。(だから第1話の「ご唱和ください、我の名を!」でジャグラーがハルキに言った「大好きだ」が実はこの作品の全てだったりするのかも)

 

ユウキ・マイに関しては視聴者に嫌われないといけないキャラクターだったのであえて好かれる要素は外したと思われるところがある。『ウルトラマンZ完全超全集』に子供の頃の憧れの職業が客室乗務員だとあるがこういうのが劇中で触れられていたら彼女のイメージもまた違ったものになっていたかもしれない。

 

ウインダムとキングジョーストレイジカスタムが倒された時にバコさんが操縦するセブンガーが駆けつけるのが燃える! やはりドリルは男のロマンだ!
因みにバコさんの過去はツブイマで配信されている小説『擲命のデシジョン・ハイト ーストレイジ創設物語ー』や『ウルトラマンZ完全超全集』で取り上げられている。昔、ちょっとモゲラのパイロットを……していたわけではない。

 

『Z』は『オーブ』の後日談の要素がある作品だが『ジード』の後日談の要素もある作品なので、最後にベリアルのメダルがアトロシアスになってハルキとヨウコ先輩を救う事になる展開は興味深いものがある。

 

ベリアロクの犠牲によってデストルドスのD4レイを撃つ器官が破壊されるがゼットもデルタライズクローの変身が解けてしまう。しかし、仲間達の声援を聞いたゼットは復活しオリジナルのまま戦い続ける。
ヒーロー作品で最終決戦を最初の形態で戦うのは色々あったが最後は原点に戻ると言う感じがして第1話から見ていると色々な感情が湧き上がってきて盛り上がる。
決着の「Z」の形になるゼスティウム光線の力押し感嫌いじゃないw

 

逃げるセレブロに蛇心剣を突きつけて「ゲームオーバーだ、セレブロ。コンティニューは無しだ」と告げるジャグラー。するとそこにセレブロを網で捕らえるユカとカブラギが。
カブラギはセレブロを見て「こいつが犯人です」と言っていたので寄生されていた時の記憶が戻ったのかな。セレブロが捕らえられた事で一連の事件の黒幕はセレブロだったで決着が付きそう。何となくだがジャグラーが原因だった事も全部セレブロのせいにされていそう。

 

盆栽を持って立ち去るジャグラーを見て「隊長。また会えますよね?」と尋ねるユカとそれに対して「じゃあな」と答えるジャグラー
このやりとりはユカを演じている黒木ひかりさんがビランキ役でもある事を分かって見ると色々深読みできるところがある。(今思えば「宇宙海賊登場!」のラストシーンとか実はジャグラーは「どの宇宙でもあの顔の女はヤバい奴しかいないのか!?」とか思っていたりしていたのかな)

 

ユカ「さぁ。解剖の時間だよぉ!」。
ウルトラシリーズでもトップクラスに怖い発言であるがウルトラシリーズでもトップクラスに「ざまぁw」と思った場面でもある。(まぁ、後にセレブロはなんとかして逃げ出してゲームコンティニューをするのだが)

 

今回のカブラギはかなりテンションの高いキャラクターになっているがこちらが本来の性格だったのかな。セレブロに寄生されていた時期の心身の状態がかなり酷いものだったので今は幸せで楽しそうで何よりである。

 

ハルキ「宇宙ではまだまだ色々な人が困ったり苦しんだりしている。俺、ゼットさんと一緒にそういう人達も救いたいんです」。
『Z』はジャグラーが光の国のウルトラマンへの対抗手段を作り出す話でもあったのだが最終的にジャグラーの部下だったハルキが光の国のウルトラマンの考えに共感して一緒に宇宙で戦う事となった。

 

旅立つハルキにヨウコ先輩は自分達も宇宙用ロボットを作って応援に行くと告げ、それを聞いたバコさんは簡単に言うなよとぼやくが、後に宇宙セブンガーが作られる事となる。

 

ヨウコ先輩の年上好きって意味がある設定だったのかなと疑問に思った時期もあったが最終的にハルキがウルトラマンと共に生きる選択をして人間を遙かに超える長寿になる可能性があると考えたら、実はヨウコ先輩がウルトラマンであるハルキを好きになると言う意味があったのかな。

 

宇宙人である事を明かしたジャグラーは戦いが終わったらそのまま姿を消したがウルトラマンと一体化した事が明らかになったハルキは戦いが終わって宇宙に旅立つまで数日あった。その間、ユカに細胞の採取を求められなかったのか気になる。

 

「盆と正月には帰ってくる」と皆に告げて宇宙に旅立つハルキ。昭和の頃や平成でも『ダイナ』の頃は最終回を迎えたら主人公は皆と永遠の別れをする事が多かったが、個人的には今回のハルキくらい気楽に旅立てるのも今の時代に合っていて良いのかもしれないと感じた。

 

In memory of 吹原幸太