帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「時の娘(後編)」

「時の娘(後編) ーワロガ ガルバス登場ー
ウルトラマンコスモス』第14話
2001年10月6日放送(第14話)
脚本 太田愛
監督・特技監督 原田昌樹

 

邪悪宇宙生命体ワロガ
身長 66m
体重 5万t
シノブリーダーの推測によると人間が怪獣と言う存在そのものを地球から排除しようと考えるように仕向けて最終的には人間の自滅を促そうとしていたらしい。
ジェルミナⅢの建設中に事故死したレニを蘇らせてムサシと繋がりを持たせる事でコスモスへの変身を躊躇させようとした。
夜中にのみ姿を現す。電流を発する。
姿を消して攻撃を仕掛けるがレニによって見破られるとコロナモードのシャイニングフィストを頭部に受けて弱まり最後はブレージングウェーブで爆発した。

 

古代怪獣ガルバス
身長 58m
体重 6万5千t
ワロガによって頭部に変調機が仕込まれていた。
ベンガルズの攻撃を受けて地底に逃げ込むがエネルギープラントのタービンが発する高周波が誘引になっていて再び地上に現れる。レニによってタービンが停止されると大人しくなり、ベンガルズとワロガに挟まれたところをコスモスによって救われる。

 

物語
ガルバスの保護に失敗したEYESは出動停止処分を受け、世論は怪獣は殲滅すべきと言う方向に流れる。
自分が今まで語ってきたのは単なる夢物語に過ぎなかったのかと思い悩むムサシにレニは……。

 

感想
時の娘(前編)」の続き。

 

夢が実現するまでには多くの困難や犠牲が存在している。それを既に死亡していたジェルミナⅢ建設クルーのレニに語らせたのが残酷だったが上手かった。
今回は怪獣保護についてまわる困難や犠牲についても語られているがほんの触り程度で終わってしまった。怪獣保護をテーマにした『コスモス』だったが怪獣事件の犠牲者の話が弱かったのが残念。

 

防衛軍戦車部隊ベンガルズが登場。街を守る為に一斉に怪獣を攻撃すると言う怪獣作品の王道展開が『コスモス』だとかつて無い危機になると言うのが面白い。
ところでどうして街中なのに迷彩姿なのだろう? 逆に目立ってしまうような……。

 

ガルバスの破壊行為によって首都圏の電気、ガス、水道のライフラインが一時ストップしてしまい、今後のガルバス対策はEYESから防衛軍へと引き継がれる事となった。
この時にアヤノ隊員は「コスモスでも駄目だったから仕方が無いよ」とウルトラマンへの依存心を見せている。一方のドイガキ隊員はガルバスがカオスヘッダー反応無しに暴れた理由に関心を向けていて怪獣保護活動が停止された事はそれほど気にしていない様子であった。これらの描写は後の「夢みる勇気」に繋がっていく。

 

意識を取り戻したムサシはEYESが出動停止処分を受けた事に憤りを隠せず「電気や水道が少し止まっただけで怪獣保護を諦めるなんて馬鹿げている」と言ってしまう。
さすがにこれは何も知らない馬鹿げている発言で、シノブリーダーに「ライフラインが止まれば被害を受けるのは病人や乳幼児や老人等の弱者」と指摘されてしまう。
怪獣保護を掲げるムサシだが、どうも目の前にある事態だけを気にしてしまって、ここで起きた事態が後に周りにどのような影響を及ぼすかまでは考えが至らないところがある。ヒウラキャップやシノブリーダーやフブキ隊員がもっと広い視野で物事を考えられるのに対してムサシはまだまだ経験不足である事が分かる。
シノブ「怪獣の捕獲保護は一歩間違えれば大惨事を招く恐れがあるの。私達EYESの活動は失敗が許されないのよ」。

 

カオスヘッダーの影」や今回の話を見るとシノブリーダーは夢を追い求めるムサシに現実の問題を突きつける存在となっている。
しかし、フブキ隊員が成長して現実の問題を踏まえた上で夢を追い求める存在になっていくとシノブリーダーの役割がフブキ隊員に移っていった。後輩であるフブキ隊員がシノブリーダーの役割を担えるようになるのは彼の成長を描く上で効果的であったが、その結果、シノブリーダーが思ったよりメインの物語に絡まなくなった。(それを補う為にシノブリーダーにはカワヤ医師との恋愛話が用意されたのかな?)

 

ワロガの操り人形であるレニを捕まえる為に防衛軍特務部隊が登場する。
特務部隊のチーフを『ガイア』でリザードの瀬沼を演じた石井浩さんが担当している。因みに名前は「石井」とあまりにもそのまんま。前回の「時の娘(前編)」から登場した右田昌万さん演じる医者も「右田」とあまりにもそのまんま。実は原田監督は二人とも今回限りのゲストだと思って名前を考えなかったらしい。事情は分かるが、やはり1話限りのゲストでも名前はちゃんと考えてほしい。

 

こういう秘密部隊が黒服にサングラスの集団で目立つのは問題があると言う意見があるが、こういう格好をする事によって個々の顔が分かりにくくなると言うメリットもあると思う。とは言え、こんな格好で真昼間の大学を走り回ったら目立つ事この上ないのは確かだが……。

 

かつて自分が通っていた大学に向かうレニ。
命をかけての夢であったジェルミナⅢが自分が死んでいる間に完成していたと言うのは一体どういう気持ちだったのだろうか……。

 

ムサシはEYESの隊服を置いてトレジャーベースから去るとレニに会いに行く。
ムサシと再会した時にレニが口パクで「コスモス」と言っているのが細かくて上手かった。

 

自分の考えは夢物語だったのかもしれないと言うムサシの気持ちを聞いたレニは百年前には宇宙ステーション建設も誰もが夢物語だと思っていたと告げると自分はジェルミナⅢの建設クルーになった事を後悔していないと記念写真を見て笑顔で語る。
ここからのレニの話はウルトラシリーズでもトップクラスの長台詞だが『コスモス』にとって非常に大事な台詞となった。
「五百年前までは地球が丸いなんて誰も考えた事も無かったんだよ。だから、初めて船乗り達が海の向こうに大陸を探そうとした時も誰もが「不可能だ」「夢物語だ」と言った……。百年前、初めて人が小さな飛行機で空を飛ぼうとした時も、初めて人が宇宙を目指そうとした時も、やっぱり誰もが「夢物語だ」と言った……。実現するまではいつも夢物語だったんだよ……。それでも多くの名も無い者達が夢物語に憧れ命を落とし夢を継いできた……。私達建設クルーがジェルミナⅢの事を「時の娘」と呼んだのは自分達が夢を継ぐ者の一人だって言う誇りがあったからだよ。ムサシ……、あんたもそうじゃなかったの? 人間が地球で生まれた怪獣と可能な限り一緒に生きていこうとする……。そんな話、今は夢物語かもしれない……。けど、あんたはそれがいつか実現すると信じてきたんじゃなかったの?」。

 

ムサシとレニを追って街に出たシノブリーダーはトレジャーベースの中では気付かなかった街の人々の生の声を聞く。
「怪獣と共存して何が人間にメリットがあるの?」、
「やっぱり迷惑な事に変わりは無いでしょう? 電車とかすぐ止まっちゃうし」、
「地球ってのは人間が暮らす為にある」。
人間本位で怪獣を排除しようと考える者や何が起きても怪獣事件そのものに関心を持たない者。このように日常的に怪獣が現れるようになった世界での一般人の考えが語られるのは意外と珍しい。怪獣保護を掲げる『コスモス』ならこういう声をもっと取り上げても良かったと思う。
この時の街の人々の意見では怪獣保護より怪獣殲滅が優勢で人々の支持はEYESより防衛軍に傾いているように思える。今までTVシリーズの防衛軍はEYESが怪獣保護に失敗してから出撃してたが今回の話からは怪獣事件に対してかなりの発言権を持つようになる。

 

街の人々の考えを聞いたシノブリーダーはワロガの本当の狙いは人間に怪獣と言う存在そのものを排除させようと考えさせる事で、快適な暮らしだけを求めて他の地球生物全てを排除しようとすれば人間はきっと自滅するだろうと解釈する。
なんて回りくどくて気の長い計画なんだか……。
他の生物を排除しようとすれば結果的に人間そのものの破滅へと繋がると言う考えは前作『ガイア』を思わせる。又、ワロガも根源的破滅招来体も何も語らないので人間が自分なりに解釈していくと言うのも似ている。
ワロガの正体だが本人が意思表示をする場面がかなり少ないので実はレニと同じ操り人形で裏で何者かに操られていた可能性がある。肩書きが「宇宙人」ではなく「宇宙生命体」なのも実はワロガは意思を持った「人」ではなかったと言う事なのかも……。

 

ガルバスの頭に仕込まれている変調機がエネルギープラントのタービンが発する高周波に引き寄せられている事に気付いたムサシとレニはエネルギープラントに向かうが、そこにシノブリーダーとフブキ隊員が来て二人に銃を向ける。
シノブ「あなたが悪くないのは分かっている……。でも、行かせるわけには行かない!」
レニ「私があなたでもきっと同じ事をする。だから、あなたが私でもきっと同じ事をするはずです」。
そこに防衛軍特務機関がやって来るとシノブリーダーの銃が火を吹いて閉ざされていたドアのロックが開けられる。
シノブ「行きなさい! 早く!」。
先に進むムサシとレニ。
石井「何のつもりだ?」。
と石井が懐から銃を取り出すとシノブリーダーは振り向き様に銃を構えて答える。
シノブ「気が変わったのよ」。
ここでかかるワンダバが実に最高! シノブリーダーカッコ良過ぎ!!

 

街ではガルバスとベンガルズが交戦中で、タービンが停止した事で大人しくなったガルバスを見てベンガルズはチャンスとばかりに攻撃を強める。
冒頭もだったが怪獣との戦いで人類が形勢逆転すると言ういつもならカタルシスのある展開が『コスモス』ではプレッシャーになるのが皮肉で面白い。

 

大人しくなったガルバスは逃げようとするがワロガの紫の球に逃げ道を塞がれてベンガルズに倒されそうになる。それを見たレニはムサシにガルバスを救う為にワロガを倒すよう頼むが、ワロガを倒したらレニの命も消えてしまう事を知っているムサシは変身を躊躇う。
レニ「あいつを倒して私を眠らせて……、ウルトラマンコスモス……。あんたは優しいから私が生きていればきっとあいつを倒すのを躊躇う……。初めて会った時からあんたを知っているような気がしていた……。でも、それはあいつが私に植えつけておいた偽の記憶だったんだ……。あいつが仕掛けた罠だったんだ……。だけど、それでも私はあんたに会えて嬉しかった……。あんたの手で私を人間に戻して……。あのそらに時の娘を作ろうとしていたレニに戻して……」。
レニの言葉を聞いたムサシは無言でコスモスに変身する。
THE FIRST CONTACT』や「落ちてきたロボット」を思わせる変身ポーズだった今回は『コスモス』において特に印象深い変身となった。
それにしてもワロガの悪意は全ウルトラシリーズ中でもトップクラスだ。

 

アンビシャス・ロケッツで紫の球を攻撃するコスモス。姿を現すワロガ。対峙するコスモスとワロガ。闇夜に両者の電飾が美しく輝く。
いつものBGMが鳴らないコロナモードへの変身。その後のピアノ曲をバックにした静かな戦い。抑えた雰囲気が逆に戦いを静かに盛り上げていく。
ワロガは姿を消してコスモスを攻撃。苦戦するコスモスだったがレニがワロガの位置を把握して「許さない……」と呟くとワロガの姿が暴かれる。これはレニとワロガが同質のパルスを持っているのでそれが関係していると思われる。
ワロガに止めを刺す直前にレニの方を見るコスモス。黙って頷くレニ。放たれたブレージングウェーブによって爆発するワロガ。高ぶった様々な感情を抑えるようにポーズをとるコスモス。全てが終わったレニはそらを見上げる。
そのそらの向こうには「時の娘」であるジェルミナⅢが浮かんでいた。

 

全てが終わった後、ムサシは写真を手にレニの言葉に想いを巡らす。
「レニ……。僕は夢を継いでいく。人間と怪獣と……この星を守る夢だ」。
今回の話でムサシは怪獣保護の夢を実現させようと決意を新たにした。
ただワロガの件があったからか、これ以降のムサシは宇宙人に対して厳しい態度を取るようになったのもまた事実だったりする。