帰ってきたウルトラ38番目の弟

ウルトラシリーズについて色々と書いていくブログです。

「幽声 -コーリング-」

Episode29 幽声 -コーリング-」
ウルトラマンネクサス』第29話
2005年4月30日放送(第29話)
脚本 村井さだゆき
監督 根本実樹
特技監督 菊地雄一

 

アースロポッドタイプビーストバンピーラ
身長 45m
体重 4万t
ビースト振動波を反射する霧を吐き、生き残った人間の記憶を消す事で自分の存在を隠していた。
人を誘う音波を発し、赤く光る眼で相手の脳に刺激を与え、口や尾部から吐く発光性の白い糸で捕らえる。
ネクサスとの最初の戦いで霧の分泌器官を破壊され、再生の為に山を降りて大量の人間を捕食しようとしたところをアローレイ・シュトロームで倒された。
肩書きの「アースロポッド」は「節足動物」と言う意味。
『コスモス』の「蛍の復讐」のカオスバグの着ぐるみを改造している。

 

物語
溝呂木が生きていた!?
自分の存在を隠す新種のビーストが暗躍する中、孤門達は溝呂木と理子と再会する。

 

感想
視聴率や関連商品の売り上げが低迷した『ネクサス』は4クールの予定だった放送期間が3クールに短縮されて次回作として『マックス』が急遽制作される事となった。
今回の話も前後編を1話に再編集して放送されたのだが後にカットされた場面を復活させたディレクターズ・カット版がDVDに収録される事となった。
因みに今回のレビューはディレクターズ・カット版を見てのものとなっています。

 

予知者 -イラストレーター-」「悪魔 -メフィスト-」に登場した山邑兄妹が再登場。
理子は瑞生が初めて記憶処理を担当した人間だったのだが、ビーストの内部に囚われた事が関係してか、ビーストに関する記憶を処理するはずがビースト事件以前の全ての記憶を失う事となった。
自分の名前すら忘れて両親の事も何も覚えていなかった理子がバンピーラが蓄えていた情報から自分の両親の顔を見て声を聞く事で再び山邑理子として歩み出す展開が上手かった。

 

生きていた溝呂木だったが、記憶と力を失い、かつては大勢の人間の生殺与奪を握っていた男が少女にすら怯える変貌ぶりが面白かった。
ミカンを与えられる場面は大男の溝呂木が怯えたように見上げて少女の理子が無表情で見下ろす構図が印象的だった。
その後の声に導かれて手を繋いで山に入っていく二人の関係が何とも不思議で絶妙。

 

理子にもう一度メモレイサーを使ったら今度は何が起きるか分からないと言う事で今回は理子にビーストを見せてはいけないと言う制約が付けられてドラマとしての緊迫感があった。こういう制約があるとメタフィールドの設定も活きてくる。
ただ、結局は理子はメタフィールドの中を見たので記憶処理の対象になってしまうのではないかと言う疑問はある。又、ビースト事件に関する記憶処理が失敗した理子をMPの監視下に置いていなかったのもこれまでを考えるとやや不自然であった。今回の話は雰囲気は良かったのだが振り返ってみると意外と理子絡みの設定が説明不足だった気がする。

 

溝呂木の生存を知った松永管理官はMPとホワイトスイーパーを使って捕獲に動き出す。
吉良沢も溝呂木の生存を知っていたが今回の捕獲作戦に関しては松永管理官に主導権があった模様。
今の溝呂木は力と記憶を失っているとは言え松永管理官は巨人の力に繋がる鍵を再び手に入れる事が出来た。

 

バンピーラが発する呼び声の正体はかつて他のビーストに捕食された人々の声だった。この事からビーストが振動波を使って互いに情報を伝達し合っていた事が判明する。
ビーストはこれまでは溝呂木の配下と言うイメージがあったが今回の話で溝呂木無しでも独自に進化をしていた事が明らかになる。
今回は他にもバンピーラがMPのやり方を真似て被害者の記憶を消すようにする等、ビーストの今後の可能性を感じる話であった。
人間がビーストとの戦いを経て戦力を増強させたのと同じようにビーストも人間との戦いを経て進化していく。人間とビーストの戦いは終わりなき道へと進み始めるのであった。

 

冒頭で尾白の怪談話を使ってバンピーラの能力を説明するのが上手かった。
一方で今回の憐は物語に殆ど絡まなくて遠くでビーストの気配を感じていきなり変身している。
これは憐の設定を特殊なものにして活動範囲を遊園地に限定してしまった弊害と言える。こうして見るとウルトラマンに変身する者が特別チームに所属していると言う従来のフォーマットがいかに使い勝手が良い優れたものだったのかが分かる。

 

「理子ちゃんの事は僕に任せて。必ず助けてみせる!」。
「あの子達の住む街を守る為に僕は今出来る事をするだけだ!」。
悪魔 -メフィスト-」では憎しみを優先させた為に取り返しのつかない事をしてしまった孤門だが、その話と同じく理子がゲストとなった今回の話で「人々を守る」と言う自身の立ち位置を捉え直す事が出来た。
特に面白いのが理子の兄と従姉が孤門を救助隊と信じて理子の事を託す場面。二人が孤門を救助隊と信じたのは孤門がナイトレイダーの制服を着ていたからであろう。「人形 -マリオネット-」で溝呂木がリコの家族を殺害し、「悪魔 -メフィスト-」で孤門が理子の別荘に乗り込む等、ナイトレイダーの制服=怖いものと言うイメージがあった中で今回はそのナイトレイダーの制服が理子を守るのに役立つ事となった。

 

エンディングで冒頭と同じように道路に耳を付けて何かを聞こうとしている理子。いつも通りの本編映像のダイジェストかと思いきや実はこれは後日談であった。笑顔を取り戻した理子の姿に思わず涙が出る。
本編のエピローグとエンディング曲を被せる演出は『ティガ』から『コスモス』ではよく見られたが『ネクサス』では初めて。自分は平成三部作からウルトラシリーズを見始めたのでとても好きな演出。エンディングが復活したニュージェネレーションシリーズでもやってほしいなぁと思っている。

 

辛い目に遭った子供、心の闇を表した絵、死んだ両親の声に導かれる等、『レオ』の「死を呼ぶ赤い暗殺者!」を思い出す話だった。

 

ウケ狙いじゃないんだろうけれど、理子の境遇を聞いた溝呂木の「酷い事する奴がいたもんだ」はやっぱり思わずツッコんでしまう。

 

TV放送版は前後編を1話に纏めているのでさぞかし無茶苦茶な展開になっているだろうと思いきや見返してみると押さえるべきところはちゃんと押さえているので、憐の出番がさらに少なくなっていたりバンピーラの霧が途中で無くなったりと不自然な展開はいくつかあるが思った以上にちゃんとまとまって驚く。

 

今回の話は根本監督のウルトラシリーズ監督最終作となっている。